「百貨店や専門店にある「小出松寿」の雛人形ってどうなの?」
「京都の作家?作りはいいの?どこをみたらいいの?」
この記事は、雛人形作家であり伝統工芸士である「小出松寿(こいでしょうじゅ)」の作る雛人形について知りたい方へ書いています。
ここからは、当サイトの「ひなのすすめ」が、これまで実際にたくさんの松寿作の人形を見て触って、様々な角度や距離から撮影した経験から、具体的にどこに松寿らしい作りがあるのか、どこを見たら良さを実感できるのかを紹介したいと思います。
[人形工房松寿] 小出松寿について
小出松寿は雛人形本体を製造するメーカーです。
雛人形本体のほか、市松人形や尾山人形(おやまにんぎょう)、そして球体関節人形を製造しています。
※球体関節人形という世界は専門的な世界ですが、歴史や技術ともに深い世界です。
雛人形の話とはそれてしまうため、また別の機会にでも紹介したいと思います。
工房松寿は全国の有名百貨店にほぼすべてにおいてみることが出来ます。
そして同じく全国の人形専門店へ雛人形を出荷している工房です。
工房は東大阪市にあります。色んな工場などがある地域です。
現在は3代目となる小出道子さんが「小出愛(こいでめぐみ)」として主宰をされております。
くわしい工房の歴史やサイトをご覧いただければと思います。
人形工房松寿公式サイトはこちら
人形の形・着せ付けの特徴
人形の輪郭を指して「形」といいかえて説明します。
松寿の雛人形は正面から見て左右にバランスよくつくられます。それは、決して機械的な左右対称ではなく、何年も繰り返してブレや揺らぎが少ない、手の技によるバランスの良さを感じさせます。
ですから、正面から写真をとって中心に線を引いて左右の体のラインが正確に対称になっているという事では無いのです。
その少しのゆらぎは、雛人形に人間らしさを表現させています。
では、具体的なポイントの紹介に入ります。
左右前後上下のバランスが美しい
とはいえ、松寿工房の雛人形はバランスが美しいのです。
サイズが変わっても同様にバランスを美しく設計してあります。
そして重要な事ですが、松寿人形の雛人形は「強装束(こわしょうぞく)」という概念を意識した作りとなります。
強装束とは、直線や平面で表現される衣装であり、それによって生地が強張り堂々としてしっかりと正面を向くような印象になります。
※反対の「柔装束(やわしょうぞく)」という着せ付けの概念もあります。
この着せ付けの特徴によって、松寿の雛人形の形はバランスの美しさを手に入れるだけでなく、
・伝統的な重厚な印象
・凛とした印象
を感じる作りになっています。
背筋がまっすくであり、首(頭)が垂直についている。
首から上の「部品」である「頭(かしら)」というのは、頭専門の作家が作っており、それを雛人形作家が仕入れて自分の雛人形に挿します。
そして、雛人形制作の最後の工程において、頭を付ける作業を行います。
「首がまっすぐに垂直に挿さっていること」
当たり前のように聞こえますか?
これは、まったくもって当たり前のことではありません。
頭を付けることに無頓着な工房は非常に多いです。
雛人形作家というのは、「お客様にとって顔が決め手になる」ということを本当のところでは理解していない方が多いです。だから、多少まがっていても気にしないで納品されます。
小売りの現場では、どんなに丁寧で仕立ての良い雛人形であっても、お顔が原因で売れないという事を痛いほど経験しているものです。
顔の種類が違うという事もそうですが、しっかりとまっすぐについておらず、前後・左右の傾きによって、雛人形がとてもだらしなく貧相になってしまうのです。
たとえば、多少うつむき加減に挿している場合に奥ゆかしさを表現しているという説明をするところもありますが、そういう工房は大体において前後の角度だけでなく、左右の角度も曲がっていたり、うつむきではなく多少上向きのもあったりしますので、いかにいい加減な頭挿しなのかと思ってしまいます。
私たちのような撮影・WEB作業担当者や、検品出荷作業者は、雛人形の頭を挿しなおします。
クレームに直結することなので、まっすぐに美しく挿しなおします。
そのおかげで、私は頭の取り付けにはかなり自信があります(笑)
そんな業界の中で、この松寿の頭の付け方については体の芯に垂直であり、体に平行であり、それが全方向から見ることが出来ます。※
他社が余りにも出来ていないせいか余計に感動します。
衣装の「絵羽合わせ」がされている。
雛人形における絵羽合わせというのは、
「殿の胸の衣装の柄を途切れさせずに合わせる」ということになります。
だからどうしたという印象でしょうか。
この、柄を合わせるという事は、そのために使える生地が限られるということになり、使えない部分の生地が増えてしまうという事なのです。
このように織物の地紋をあわせたり、連続した柄をあわせたりするのは、作業時間も作業工程も増え、生地の取り都合によっては、多めの生地を用意しなくてはいけなくなります。
※刺繍や手描き友禅であれば、好きな場所に好きなようにデザインできることから、工数の増加や生地の取り都合という問題はなくなり、難しいことではなくなりますので、多くの工房では、刺繍や染め(後からエアスプレーで染色)をして「絵羽合わせ」とされています。
ただし、これが悪いこと、手抜き工程という事ではありません。刺繍でも染でも、絵羽の柄を合わせることは、美しい表現には必要な作業です。
姫の袖は手首で閉まり、大きく膨らむ。殿は手首から終いまで閉じたまま膨らむ。
雛人形作家の特徴は袖の形に現れます。
姫の袖はこのような特徴です。これは、松寿の袖の着せ付け方です。
似ている作家もいるかもしれませんが、それは「似て非なるもの」であり、松寿ではありません。
人形の形(輪郭)とこの袖の形によって、人形業界の者は作家を判別できます。
殿も同様、手首を絞ります。そして袖の中が見えないようしぼったまま、裾に行くにつれて大きく膨らみを持たせます。
この形が、人形工房松寿らしさであり、力強く重厚で伝統的な印象を表現するのです。
小出松寿の「専用頭」について
お顔というのは基本的に、人形作家から指定されるものではありません。
多くの場合は、仕入れる側(小売店側)が好きな頭を選びます。
ただ、それだと選ぶのが大変だったり、面倒に感じる小売店も多いので、
人形作家はいくつかの頭をセットして見本を展示するわけです。
そして頭というのは一般的にどの人形作家が何を使ってもいいものです。
「頭製造会社から、人形製造会社が頭という商品を仕入れる」というイメージです。
そんな中、小出松寿の頭は工房として2種類の「専用頭」を提案しています。
松寿専用の頭(お顔)の特徴1 現代的なお顔 「市川伯英頭」
一つ目は、現代的でありながらも、日本人らしい輪郭と雛人形らしい微笑みを感じることが出来る
頭師:市川伯英が人形工房松寿のためだけ、松寿専用頭として制作している頭です。
お顔の写真というのは本当に繊細なもので、上記のお顔写りも綺麗ですが、
自分で撮影していてなんですが、実際の綺麗さには遠く及ばないなと感じます。
もっときれいな写真もありますが、実際はやはり実物をご覧いただければと思います。
このお顔は京九番用ですが、京十番、京十一番、京十二番、とサイズが各種あります。
ただ、やはり大きさもあることから京九番が一番きれいです。
松寿専用の頭(お顔)の特徴2 伝統的なお顔 「藤澤瑞馨頭」
京頭は、現在数名の頭師しかいませんが、「藤澤瑞馨」はその中でも稀有な女性の作家です。
頭師:二代目川瀬猪山に師事し、独自の頭を作り上げました。
京頭らしく、「伝統」を感じますし、その「重み」というか京頭師という責任のようなものを感じます。
このお顔は、実は撮影の機会が少ないことから、もっと写真をしっかり撮りたいなと感じています。
この写真のサイズは京十一番位のサイズなのですが、やはり京九番や最低でも京十番の頭を、さまざまな角度や距離、陰影を比較しながら撮影してみたいです。
撮影の機会が少ない理由は、お客様の需要の偏りのためです。
京頭の良さは、本当に玄人好みとなることから商品の入荷が少ないというのが現状です。
撮影ができ次第、このページを更新したいと思います。
見えない部分における特徴 ※重要
では、購入するまで・もしくは購入したとしてもお客様の知らないところでこだわっている部分を紹介したいと思います。
見えない・知られないという部分にコストを欠ける大きな理由は、「真面目」であるということにつきます。
そういう部分をぜひ紹介したいと思います。
商品の梱包状態
雛人形とはその素材から、梱包時にたくさんの資材を使います。多くは紙です。
まず一番の外側は紙箱といい、段ボールの箱を使うのが一般的です。
現在の住宅環境は昔と違って気密性が高く、湿度・温度の管理がされているため、人形に虫やカビということがほとんどありません。
それでも、もっともよい保存方法は「桐箱」であることは変わりません。
しかしながら、そのコストは大きいのです。桐箱の原価という問題もありますが、桐箱は場所を取りますし、その保管についても、販売前に痛めてしまっては大変です。
そのため、組み立て式の段ボール箱は、場所も取らず痛んでも買い替えがしやすいことから、桐箱を使わないメーカーが主流です。
松寿では、もちろん基本は桐箱です。
※ただし、仕入れる小売店として、原価を抑えるために紙箱(段ボール)としているところもあります。
そして、人形の入れ方も殿と姫が座っています。
これは京十番の梱包状態ですが、人形を防虫シートをかけて、そのうえから段ボールの仕切りで固定しています。これにより、人形が動いたり着物が皴になることはありません。
殿と姫が重なることなく座って箱に入るという事は普通のことだと感じるでしょうか?
そうですね、一般的にはそう考えるかもしれませんが、
多くの雛人形の梱包状態では、多少重なっていたり、殿が背中を地面につけて梱包されたりします。
なぜそうするかというと、メーカーも収納方法を工夫して、箱自体の大きさを小さくしたいのです。
これは、お客様の家での保管スペースを少しでも抑えるためです。
しかし、松寿では、その考えに同意できないといいます。
しまう時もちゃんと座って収まりよくするべきという考えです。
人形に対して綺麗でいてほしいという思いがにじみ出ています。
人形の胴柄(どうがら)は、桐、楠を使った木胴(もくどう)である
人形の中身は、藁(わら)でできています。藁胴(わらどう)といいます。
藁胴は基本ですので、なにも悪いことはありません。
ただし、昔からのデメリットで
・保管が悪ければ藁に虫が巣食う
・長期間で痩せる
ということもありますが、住環境の改善によって現在はあまり問題になっていません。
では、松寿でつかっている桐木胴はどういうメリットがあるのか。
まずは、
・虫が食わない
→桐や楠をつかっていることから、天然の防虫効果を持たせています。
また、頭を挿す部分は藁ではなくイグサを使うことで虫がつきません。
・形が崩れにくい
→胴体部分の中身が固いため、形がしっかりとしており、松寿らしい強装束の表現や感触にも寄与している。
という事が言えます。
販売にたいするフォロー、アフターフォローともに安心
これは、小売店としてとてもありがたい部分ですが、お客様からの些細な相談やクレームに対し丁寧に最善の方法で対応をしてくれます。
雛人形業界では、手仕事ゆえに制作・販売側からは些細な事でも、消費者にとっては不良なのか?とわからずに相談されることは山ほどあります。
それらに対し、誠実に真摯に対応してくれるという体制がしっかりしています。
※ただ、松寿の人形自体、クレームがほぼ皆無です。
人形小売店は、このバックアップの安心感もあって小出松寿の人形を紹介したくなるのです。