五月人形

[ 弓太刀 について ]弓太刀を飾る理由とは? 節句人形販売員が知っておくと便利な知識 五月人形編

五月人形には向かって左に「弓矢」、向かって右に「太刀」を飾ります。
これを弓太刀飾といいます。

この弓太刀だけでも立派な飾りに見えますし、良い物であれば10万程度になるものもあります。
この弓太刀、なぜ飾るのか。販売の現場ではどんな説明で接客をしているのか。

今回は弓太刀についてご説明したいと思います。

1)弓太刀を飾る意味

そもそも、弓と太刀それぞれに別々の意味合いがあります。
弓だけ、太刀だけという風に別々に飾ることもありますが、それはいわゆる「崩した」飾り方かなと思います。
そして、必ずなければいけないという事でもありません。

少しずつ解説していきたいと思います。

弓矢を飾る意味

日本において弓は古来より、狩猟以外にもとても意味をもっていました。
一つは弓神事と言われる神事としての意味合いです。
例えば、「鳴弦の儀(めいげんのぎ)」と呼ばれる儀礼では、矢をつがえずに弦を引き音を鳴らします。
このときの音を、弦が鳴くと表現しており、その音によって災い・厄災を祓うといわれます。
鬼・魔といった目に見えない厄災に対して行う神聖な儀でありました。
そして、弓を使った儀式というのは色々な形で日本各地にあり、様々な儀礼として現在も行われています。

太刀を飾る意味

五月人形で飾られる太刀は、実践で使われる刀とは別のものという思想があります。
実践で使う刀の形はとらず、装飾が施されより光を放つように作られます。

弓同様、刀も日本古来より神聖な意味合いを伴っています。

たとえば天皇がもつ三種の神器も刀(剣…つるぎ)が含まれています。
また、古事記や日本書紀においても刀・剣が戦い以外においても重要な役割を果たしています。
つまり、日本人は刀に精神性をもっていました。
そして、五月人形においても同様な思想があるのです。

それは、例えば魔物が光物を嫌うという話もあれば、一振りの剣によって道を切り開いたり、神を交信する媒介となったりといった伝説や逸話もありますね。そういった刀・剣そのものというよりも、刀がもつ「神聖性」が「御守り」として五月人形に添えられているのです。

2)飾らないとだめなのか

あくまで個人的な意見ですが、全くもってそんな事はありません。

「兜(鎧)、屏風、飾り台、弓太刀」という飾り方が定着したのは戦後位と言われています。
もともとは子供大将を飾ることが一般的でありました。
弓太刀には上記で説明したような「意味」を持たせていますが、メインの人形を引き立てる付属品としてでてきたようなものです。
たとえば、20年位までになると、「軍扇・陣笠・太鼓」を鎧兜の前に飾っていました。今はもう見ることはありませんね。
10年以上業界にいて製造・問屋でさえも。この前飾りの事を自ら話する人はいません。
こちらから聞くと初めて「ああそういうのもあったね」という話がでてきます。

また、鎧の両脇には鯉登りがおかれたり、関西では家紋入れ提灯が飾られたりしていましたが、それも今はあまり見ません。

反対にここ5年位で新しく出てきたものが「名前旗(なまえばた)」です。
刺繍やワッペンで名前を入れた旗を人形と一緒に飾ります。
これは、当初、単価アップの案の一つとして生まれました。そういった単価アップのための商材というのは一定間隔で生まれるものですが、その中でも本流に残って流行るというのは珍しいのです。

この名前旗は今では「あたりまえ」のようにどこにでもありますし、お客様も五月人形と一緒に買うものという認識の方も多いです。
つまりこの5年程で、「昔からあるもの」のように溶け込んでいる商材なのです。

話を戻しますと、弓太刀においてもいつからか飾られるようになっていて、おそらく意味も後付けで節句にふさわしいように考えられ、定番になったと予想します。
現に、弓太刀を付属しない五月人形セットも当たり前のように販売されていますし、もっというとメインの鎧兜のみを飾ることが、あらゆる販売店においてなにも問題ないと認識されています。

ですから、なくてもいいと考えることが妥当なのです。

3)弓太刀の販売時の説明

とはいえ、販売する側からすると単価アップは必要です。
あたらしい「名前旗」での単価アップはあまり効果的な売り上げではありません。

 ※名前旗は、刺繍タイプになると原価も高いので利益は薄く、かつ、刺繍する名前や生年月日の間違いというリスクもはらんでいます。
 一つ間違えただけでそのお客様の分は赤字になります。このことから積極的に販売しない店もあります。

ですから、弓太刀にはいくつかの種類を用意し、品質やデザインによって鎧兜を本当に引き立てるものをセッティングするのが、熟練販売員のセンス・仕事です。

結局、弓太刀が必要かどうかという説明だけでは、「必要というわけではない」というのが正直なのです。
それでも弓太刀を添えてもらうには、その弓太刀本来の良さを表現することが一番です。

たとえば、
メインの鎧兜の色・デザイン・品質を熟知したうえで、その鎧兜にあう弓太刀をセットし、
本当の意味で「鎧兜が引き立つ」という状態をお客様に見てもらうこと。
これが、弓太刀販売時の本質的な説明と考えます。

その良い状態を見たら、弓太刀無しでは飾れない、と感じてもらう事。
それは、たくさんの鎧兜の作りの違いを知り、同様にメーカー毎に異なる弓太刀の作り・素材・デザインを知ることでできる仕事です。

4)番外 販売員による説明の差異について

結局弓太刀の有無は、五月人形には関係ないことなどちょっと調べればだれでもわかる事です。
それなのに、
「弓太刀は必要ですよ」「弓太刀が無いと変です」「伝統的な飾り方、正当な飾り方から外れてしまう」
などなど、まあいい方は色々だと思いますが、頑として弓太刀を外さない姿勢の販売員もいます。

それは、その販売員にとってはそうなのです。
つまり、そうやって販売してきた経験からの考えなのでそれも正解なのです。

御節句の小売店というのは、店の方針や考え方などをスタッフ全体で共有するということはしていません。
小さな店ばかりです。大きなお店もありますが、やはり他業種と比べて遅れている業界です。
店の考え方ではなく、あくまで販売員個人の考え方で接客しています。ですから、販売員によって話す内容が違うのは当たり前なのです。
これは節句業界の販売の仕方が胡散臭いという事ではなく、アパレルであっても飲食であっても未熟な店ではよくあることです。
ただ、節句業界は業界全体が未熟だという事です。

そしてお客様になったのなら、弓太刀が要るか要らないかの話はせずに単純に、
・セットされてる弓太刀がダサいから要らない
・弓太刀が無いほうがかっこいいから要らない
・あっちの弓太刀だったらかっこいいから代えてほしい
と言ってあげてください。
それでかなわなければあきらめましょう(笑)