雛人形を華やかにするお道具の代表である「屏風」を紹介していきます。
屏風には作り方や素材によって種類があります。
作り方による種類
屏風の作り方ですが、一般的には「本装」という作りが最も良いとされています。
良いというのは、屏風を置いて正面から見たときの絵の見え方が良いということではなく、
作りとして古来から伝わる「本来」の作り方の屏風という意味で、「良い」と呼ばれます。
本装仕立ての屏風
木材で格子状の骨組みの枠を作り、その上に紙を貼ることで屏風とします。太鼓張りと表現することもあります。
本装タイプは屏風の一枚一枚のつなぎ目が、「紙」を使った番(つがい)である紙番(かみつがい)で接続されます。
これによって、屏風一枚一枚のつなぎ目から屏風の背面の景色が見えることがありません。
また、屏風の枠の厚みも薄いほうがすっきりとし上品に映ります。
少し長いですが、以下の動画を見るとその作りの複雑さがわかります。
動画ではコンパクトな屏風で雛人形で使うようなサイズ感で作っています。
このような工程で作るため、作業には経験が必要になります。
また、本装は軽いため、設置が容易な点もよいかと思います。そして、その手間暇をみてわかる通り、屏風の値段は高くなります。
略式タイプの屏風
本装以外の作りは総じて「略式」と言われたりします。簡略したタイプという意味でしょうか。
屏風の絵・柄の見え方は変わりません。製造段階においてコストや技術が不要となる製法が使われています。
例えば屏風の内部の格子状の骨組みは用意しません。長方形の板を2枚用意し好きな柄の紙や生地を張ります。そしてそれを金属の蝶番でネジ留めするか、屏風がそれほど重くなければ、紙同士を接着剤で結合することで形を維持します。
それほど難しい技術は不要です。必要なのは、部材をそろえるという仕事です。
これは、略式で作られた屏風の接合部分です。
略式のメリットは、屏風の構造にコストを掛けずに、屏風の紙や絵柄にコストを掛けることができる点です。
綺麗な紙や箔、手描きの絵などを屏風に使う場合でも価格を抑えることができる場合があります。
そもそも、昨今のコンパクトな屏風は略式でなければ作れません。(作りにくい・本装にする意味がない)
小さく薄くコンパクトに片づけしやすいという需要に応えているとも言えます。
ですから、本装でないからといって手を抜いている商品ばかりではないということです。
衝立タイプの屏風
衝立を後ろに立てて屏風とみなすタイプです。
作りによっては、下の飾り台に差し込んで固定するももや、飾り台と金具で接続されているもの、どっしりとした足のついたものなどいくつかあります。組み合わせによってはいろいろと楽しめる屏風です。
これは、LEDによる間接照明がしこまれた衝立です。
飾り台の上にはただ、乗せるだけです。
これも飾り台にのせるだけです。細身につくられており、千筋細工の部分も少しデリケートなので丁寧に扱う必要があります。
こちらも飾り台にのせていますが、柄がある板が結構厚いことから、黒塗りの足材が大きく重くなっています。
衝立の良さは、屏風のように奥行をそれほど必要しないという点でしょう。
素材による種類
屏風の絵には様々な素材があり、素材により雛人形との組み合わせも多様になります。
雛人形は、人形と屏風でほとんど雰囲気が決まってしまします。
この組み合わせは、センスが必要です。(この場合のセンスとは勉強や経験で誰でも身につくものです。)
本金箔・純金箔などの「箔」を使った屏風
屏風の代名詞は「金屏風」です。
ただし、金屏風にも金の純度によって様々な種類があります。
「本金箔・純金箔」という表記は金100%の箔と受け取れる書き方をしていますが、実際にはそのようなものはなく、数%の銀や銅を混ぜ、打ち延ばしやすく加工されているものになります。
ただ、その配合率によって品質分けがされていることで、より純金に近いものを純金箔や本金箔といういい方をしています。金の純度が高いものは、黄色が濃く多少赤みががっており、物の反射もあまりなく照りが鈍くなります。
そして、表面に四角い箔の形の線が見て取れます。
この屏風に筋がみえますでしょうか。
インターネットでは見えにくい商品写真が多いかもしれません。これは箔筋といいます。これがあることが箔を貼っているということになります。薄くて軽く、吐息でも飛んで乱れてしまうことから、機械で貼る事ができずにて手作業が必要な屏風です。(箔商品の製造全般にいえることですが。)
箔にはいろいろな種類があります。金属を薄く伸ばしたものなので、アルミや銅なども箔になりますし、それに熱を加えて模様を出す焼箔というものもあります。これは素材により模様や色が変わります。
そして、金に見えるけれども、金を一切使っていない「洋金箔」というものもあります。これは、銅と亜鉛でつくられ、鏡のようにギラギラと反射する箔です。一見豪華なのですが、反射が強く安っぽい印象を受ける場合もあります。
金も使ってないし略式で作ればほんとに価格を抑えた屏風になります。
京唐紙・江戸唐紙・唐紙を使った屏風
桜の木の板などに模様が描かれており、それを紙に判のように押して絵を写して作られる紙です。
古典の文様や小紋などが多く、当時のデザインの美しさが感じられます。
唐紙は部材としては高価であり、京唐紙をつかうと屏風の価格も上がってしまうことが一般的です。
また、年配の方の記憶には、「ふすまの紙に使われている紙」という認識もあるようで、値段はするけど地味というものが多いです。
これは京唐紙を屏風の下の部分に使っている屏風です。
次に、これは江戸唐紙を貼っている屏風です。
唐紙に京や江戸といった言葉がついていますが、技法としては同じものです。
唐紙は、シンプル・モダン、それでいて伝統的です。近年は家のリフォームの壁紙などにも使われているようです。
このような印象から、若い方に人気があります。
手描きの絵を使った屏風
手描きの絵は屏風の醍醐味の一つです。
作家が一枚一枚描き上げる絵には、それだけで価値があるように感じます。
この手の屏風はどのような人形にも合うということはあまりありません。
屏風の前に置く、人形や鎧飾りなどの格が一段も二段もあがります。引き立てるという言葉がまさにぴったりの役割を果たす屏風でしょう。
刺繍、塗物、着物、切り絵、胡粉盛、押し花などの様々な屏風
ここからは、メーカーが様々な技法やアイデアでこれまで制作してきた屏風を紹介します。
製法としてはほとんどが、略式タイプでの作り方になります。
塗物 (手描き絵)
これは1月から12月までの季節の花々を手描きした塗り物を背景に取り付けた屏風(衝立タイプ)です。
価格もするのですが、品が良くきれいで、とくに抑え目な色使いの雛人形に合わせる方が多いです。
押し花(桜の花びらをガラスで密封し保存した状態)
本物の桜が使われていることで、この上なく情緒があります。季節柄雛人形にはぴったりです。
大きさやデザインはいろいろあります。写真は大きな縦型の2曲屏風ですが、コンパクトなのもあります。
しかし、これ位の大きさになると、ほんとにお雛様が花見をしているかのようです。
着物や古布
着物の生地を使った屏風です。「本物」「伝統」という印象が色濃くでます。
日本らしさが出ます。こちらの屏風屋さんは、お客様のお持ちの着物でも屏風を作っていただけます。
特に古布(江戸や大正に作られた着物やその生地の事)には、現在では織れないような着物があるとのことでほとんどが一点ものの屏風だったりします。そこにも価値を感じる方はおられます。
胡粉や切り絵などの異業種工芸士によるもの
これは桐の板を屏風にし、そこに胡粉で絵を描いたものです。季節の花である紅白梅を上品に描き上げました。立体感がでてまた違う見え方ができます。
これは切り絵作家さんの絵を入れています。金屏風の上に切り絵を置き、そのうえから保護塗装をしています。
切り絵によって値段は変わるものの、品の良さがあります。
まとめ
一口に屏風といってもデザインや作りは様々です。
屏風を変えるだけで雛人形のセットの価格が倍になったり、半分になったりもします。
そして、屏風一枚で雛人形がたたずむ世界観が180度変わったりもします。
雛人形を選ぶときは、人形だけでなく、屏風もじっくり見てみると、
これは屏風が良いから、セットの値段が高いのかという見方もできてくるでしょう。