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<良い雛の定義>雛人形の「品質」とはどいう意味なのか?[1素材や製法による基準]

雛人形の良しあしを説明するのはとても難しく、大きなテーマであることは間違いありません。

ですが、消費者にとってはとても重要な事です。
難しくとも理解したい人もいるでしょうし、知る事によってわからなくなることもあるでしょう。
それでも知りたいという気持ちがあれば、多少の知識になるかもしれませんので、
私の知る限りにおいてのご案内をしていきたいと思います。

良い雛人形の価値観は人それぞれです。作り方を見ても作家それぞれ違いますし、販売の仕方を見ても販売店それぞれ違います。
雛人形の飾り方であっても、伝統を守ることを強烈に推す店もあれば、とびぬけたデザインでファッショナブルにセットする店もあります。
いろいろなホームページやInstagram、youtubeなどで色々な立場の人が、それぞれの考えを自由に発信している現代において、
全てが個人の主観・ポジショントークだと思ってみるべきです。(このブログも含め)

雛人形の「品質」の定義について

何か物の良しあしを判断する際には、基準が必要になります。
この「基準」をどのように作るかによって、良しあしは全く異なるものとなります。

では、いろいろな基準になりえる項目を洗い出します。

品質基準の項目

  • 1、素材や製法による基準
  • 2、製作者の技術による基準
  • 3、消費者の求めるものによる基準
  • 4、美術的・工芸的な観点による基準
  • 5、希少性や歴史的な価値による基準

私が作品・商品を見るときに、これらの基準が綯い交ぜになって判断していることが多いです。
そして、この基準はお節句の仕事をして入れば経験を通して理解していくものでもあります。

※新しい商品から古い商品まで網羅している優れたお店で経験を積むことができれば、ものをみる「目」は短期間で育つでしょう。
また、優れた上司や先達が適切な指導をする会社に所属できれば、さらに短期間で育ちますし、もっというと販売者本人の自覚があればもっと早く育ちます。

1、素材や製法による基準について

素材はわかりやすい例でいうと、
・雛人形の着物がシルクであるか化繊(レーヨン、ポリエステル)であるか
・手足の部品が木製であるか樹脂製(プラスチック、レジン)であるか
・胴体に使われているものが、「藁(わら)」や「木」であるか、「ウレタンその他」であるか、
・髪の毛がスガ糸(正絹)であるかポリエステルであるか
等による基準です。

ここには機能的な差異を比較した場合の「良い・悪い」とは異なる基準があります。

例えば、シルクと化繊を比較した場合、風合いや手触りはシルクが勝るという歴史上の認知がありますが、
実際にはシルク同様の風合いや手触りを実現している化繊もあります。
また、防虫・防汚という機能面でも化繊が強いです。
胴体であっても、木材や藁にくらべウレタンの胴体は虫食いがなく、経年での変形がしにくくなっています。
手足も現在の樹脂製は綺麗にバリを除去し均一に塗り(塗装)がされているため、安価な木製の手足(木手)などよりもよっぽど京製の最高級木製手足に近くなっています。

ですので素材による良し悪しは、進化した技術の知識が無いための古い認識という側面もあります。

そしてその「素材」は作り方にも影響する部分です。

一般的な判断基準として、
 ・手間暇がかかること。
 ・国内で生産されていること。
 ・伝統的な自然由来の材料であること。
が良い素材と判断されますし、販売時に大々的にアピールされる場合が多いです。

そして対照的な素材として、
 ・手間がかからず大量に生産できること
  →海外生産が可能な石油繊維の生地
 ・型で大量に形成することが可能なもの
  →プラスチックなどの樹脂で形成する手足など
 ・最新の印刷機で細かな暈しや色がプリントされた生地
  →これは素材というよりも製法という見方です。
 
といったものは、「良いものではない」とは判断されませんが、その事実をあえて公表していません。
聞かれたら答えるという場合が多いのと思います。これは同様な素材を使っている衣料などの他業種でも同じかもしれません。

「素材的に良いもの」となると、上記の内容を判断することが多いですが、
「素材的に品質の高いもの」というニュアンスなると、さらに評価基準が上がります。

ここの基準はあいまいな部分も多く、
 ・手作業で細かな刺繍がされている美しい生地を海外で生産している。
  →製法としては伝統的な細かな作業で美しい状態を表現できる素晴らしい技術ですが、
  日本国内ですると人件費が高いため、低賃金で人件費が賄える海外で制作している。

 ・伝統的な有職文様の織物を使った着物だがポリエステル
  →格式の高い文様と色使いはまさに日本文化のデザインであるが、
  低価格でより多くの生地面積を生産できるようポリエステルの糸で織られている。もちろん海外製。

などは、その見た目の秀逸さからも比較的良い物としてユーザーに受け入れられている現状もあります。

ここら辺は、どうしても販売店や販売者の考え方、そして顧客の価値観によって「良い物」ととらえたりそうでなかったりすることがあります。

ですが、私の個人的な考えでは、
 ポリエステルやプラスチック素材、また、海外で生産しているものであっても良しあしには影響しない。
 つまり、
 素材によって、制作された作品の本質的な良し悪しには影響しないというのが私個人の考え方です。

だから「海外の工場で化繊の生地を大量に安く作るべきだ」ということではありません。
本質はここではないということです。それについては後の記事で説明したいと思います。

次回は[2,製作者の技術による基準]についてを書きます。