上巳の節句 桃の節句

雛人形を二つ?二人目の子が女の子です、どうするのが正しいの?正しさより考え方を整理する事。人形屋の本音を参考に。

日本では昔から、
「女の子が三人生まれたら、家がつぶれる」
というようなことを言います。

・女三人あれば身代が潰れる
・娘三人持てば身代潰す

など、いくつかの類似した言葉がありますが、どういう意味なのかといいますと

「女子を一人前にそだてて嫁入りをさせるためには大変なお金がかかり、
そしてそれが3人(三姉妹)続けばその家の財産は無くなってしまう」

という事なんですね。
これは、雛人形を販売する現場でもよくお話するに上がります。お客様がおっしゃるんですね(笑)

「孫がこれで3人目なんだけど、みんな女の子なのよ~」とか
「一人目二人目はそりゃ「めでたいめでたい!」だけど、もう何人いるか覚えられん。雛人形も五月人形も、もう買いたくないよ(笑)」
などなど、
まぁ、みなさん幸せ半分愚痴半分で笑いながら話すのですがね。

世代としては年配の方なんかは、そうやって子供が生まれるたびに御節句の人形を用意するもんだと、そういうもんなんだという常識でいるもんですが、最近の世代で具体的には40代以下(2021年現在)の両親はそうではないのです。

つまり、そういった世代はそもそも御節句・雛人形や五月人形を購入することに対して疑問を持ち、
さりとて文化や教育の面を理解し用意することもいますが、そういった方であっても、
二人目の子供や三人目の子供が同性であった場合に、新たに購入することに疑問を持つのです。

これは、そもそも戦後教育による日本文化の希薄化・喪失による弊害なのではありますが、
しかし現代の若者が疑問を持つという事も大切な側面があります。
ですから、疑問をもちそれを解消したいと考えるお客様からの問い合わせや質問に対しては、
真摯な態度で説明しなくてはいけないのが「専門店の従業員」です。
こればっかりは、

・二人目の女の子にも雛人形を買うべき
・姉妹で一つの雛人形を一緒に飾っても良い

という二元論ではないという事を書きたいと思います。

01, そもそも、お節句の意味・お人形の役割

御節句の歴史から書き出すと何ページあっても書ききれませんので、現在の簡単な認識を説明したいと思います。
※なるべく語弊の無いように書きますが、短い説明にするので人によっては微妙に認識が異なるかもしれません。

1, お節句→節句の事
2, 節句→季節の節目となる日のこと
3, 季節の節目となる日→

  • 1月7日・・・人日の節句(七草の節句)
  • 3月3日・・・上巳の節句(桃の節句)
  • 5月5日・・・端午の節句(菖蒲の節句)
  • 7月7日・・・七夕の節句(笹竹の節句)
  • 9月9日・・・重陽の節句(菊の節句)
  • →これを五節句と言います

4, 五節句の意味→

「日本の風土に融け込んだ中国生まれの節句」
 日本人形協会より

5, そんな五節句の中で、「桃の節句」の意味・役割とは

ひな人形には、生まれた子どもがすこやかで優しい女性に育つようにとの親の願いが込められています。ひな人形をその子の形代と考えて、どうぞ災いがふりかかりませんように、また、美しく成長してよい結婚に恵まれ、人生の幸福を得られますようにという、あたたかい思いを込めて飾ります。
日本人形協会より

日本の文化として続いてきた「雛祭り」は、
お人形を身代わりとする人形(ひとがた)・形代(かたしろ)という意味合いはありながらも、ほとんどが「お祝い」という観点だったのだろうと思います。上記の人形協会の説明にあるような表現はもちろんあるのでしょうが、現代において心底、身代わり人形であると考える人はいないでしょうし、
「女の子の初節句のお祝いの品として昔から雛人形を贈っている」というところまでが行事の一環となっています。

ただし、これは、歴史や伝統を踏まえて肯定的に経済的な活動に向けた利害関係者による考え方であるとも言えます。つまり、「伝統的な価値観を保ちながら継続的な商業活動を期待する表現」です。

これが、五月になって端午の節句が来る頃には、同じように
「男の子の初節句のお祝いの品としてて昔から五月人形を贈っている」というところまでが行事の一環となります。

02, 伝統・文化的な判断理由について

さて、それでは伝統・文化的な解釈で雛人形を贈る意味を単純化すると、

1)、子供が今後受けるであろう厄災を代わりに受けてくれる「人形」を用意することで、子供を守る。

2)、女の子が生まれた「御祝い」を具現化した形として人形を用意する。なぜ人形かは、上記1を踏まえることとする。

という文化・価値観であると理解できました。
この考えでいくと、

・二人目の女の子に雛人形を用意するかどうかについては、
 一人目の女の子が雛人形を持っていることは関係が無い。

という事になります。
しかし、この基準だけで判断する場合は、「雛人形を購入する」という結果が見えています。
ですが、このような単純な判断基準以外にも、もう少しだけ現代的な理由がありますよね。
それを一つ一つ見ていきましょう。

03, その他の現代的な判断理由について

つぎに現代の人が雛人形を贈る意味を単純化すると、

1, 雛人形の飾り場所を確保できないという問題

この問題を理由に挙げる方は多いです。答えだけを用意するのは簡単です。小さな雛人形を提案することや、御道具は無しで雛人形だけを購入するということもできます。飾る場所を抑えることは容易なことです。
この問題を解決するいくつかの方法を今後の記事で紹介したいと思います。

2, 片づける場所が確保できないという問題

これも上記と同様、小さくすることは容易ですしそのような提案もする必要があります。
この理由が本当に問題であれば、その悩みを解消するような商品展開をしているお店はいくらでもあります。
この問題を解決するいくつかの方法についても、今後の記事で紹介したいと思います。

3, 飾ったり片づけたりする手間が倍になってしまう事への懸念

我々人形業界で働く人間でない限り、一般的なお客様の雛人形の片付け方は「過剰」です。
それでは時間もかかるし場所も取ります。その手間がもう一組増える事は避けたいと考えるのは一般的な考えです。
これについては、雛人形の簡単・時短の片付け方を今後の記事で紹介したいと思います。

4, 経済的な理由で雛人形を購入することに抵抗がある

多くの場合、本当の理由がここにあります。
「経済的な理由」と書きましたが、雛人形を購入することができない程度の貧困であるという意味ではありません。
「雛人形」を購入するために支払う金銭がもったいないという意味です。
この金銭感覚は人が育つうえで身についた部分も影響するため、雛人形の意味や文化について十分に啓蒙を受けた人であっても「二つ目の雛人形」という部分で抵抗感覚が生まれる場合があります。

そしてこれらの理由一つ一つだけが原因ではなく、いくつかの複合、もしくは上記以外にもあるかもしれない理由を総合したうえで判断する人もいるでしょう。
つまり、

・狭い賃貸だし飾る場所もないという考えであり、
・子供も増えて片づけるクローゼットももう一杯いっぱいという現状、
・共働きで忙しく時間もないのに2セットも雛人形を飾り付け・お片付けするのは嫌という意識、
・そんな忙しい毎日で子育てにも生活にも貯蓄にもお金を掛けたい中で、5万~20万位の予算を確保することに対する不毛な感覚

となるわけで、現代的には購入に後ろ向きな条件が重なってしまうということになります。
全体を見ると解決するのは大変そうですが、一つ一つを分けて考えるとそれぞれの解決策はあります。

とはいえ、「問題を分割し一つ一つの解決策を提示する」という接客が可能とは思えません。
結果として多くのご家庭では二人目の女の子への雛人形は購入しないという判断になりがちです。

04,「用意しない(購入しない)ならそれでも良い」という考え方

人形屋の中には、文化の継承や啓蒙は露ほどにも意識せず、無知な顧客に安価な雛人形を手間をかけずに販売するだけの店が少なからずあります。
そういった組織は、現代的な商業展開に長け、効果的な露出の手法や広告の運用を行う知識や技術があり、まさに種を育てることはせずに「刈り取る」だけの「売ったら終わり」といった考えのお店もあります。
そいったお店で御節句の用意をされたお客様は、御節句の文化について理解しないまま「雛祭りパーティー」としてのみイベントを消化します。
このような場合、そこから先への文化や伝統の認知・継承はされにくいと思います。

このようなお店で一人目のお雛様を用意した方は、文化の理解が無いことから二人目の女の子が生まれても新たな雛人形の用意を意識することはありません。むしろ、理解が無いことから「二つも要らないよ」と単純に答えてしまいます。

結果、「購入しない」という判断は当然の流れになっています。
むしろ形ある「モノ」にとらわれないという考え方が主流になっているかもしれません。
そして、そのことについて(人形に携わる身でありながらも)私個人としては「それでも良い」と思っています。

このことは簡単に説明できることではないので、改めて記事にしたいと思っていますが、
一つだけ理由を言うとしたら、個人の価値観の書き換えを促す必要があるからです。
個人の価値観に対し、押し付け・強制ではないように思考を誘導し、それでいて「購入」という最終目的を目指す接客が必要です。
そしてリスクとしては、受け入れないお客様は離れていってしまうという可能性があるという事です。

販売を目指すと強気な接客になりがちで、その結果失敗する場合、顧客はマイナスイメージを持ちそれを吹聴する可能性があります。
この利益とリスクを冷静に考えると、私の接客技術では失敗すると考えていますので、個人的には積極的な接客はしていません。→ただし知り合いの優秀な販売員は失敗しません(笑)

このあたりは、もっと詳しく販売の手法も踏まえて整理し記事にしたいと思っています。

05,「人形屋さんが儲けるために買わせている」という考え方

「一人一飾り」と言って、一人の子につき一つの飾りを用意しましょうという御節句の概念があります。
形代・お守りを使いまわししてはいけないという概念です。

業界としては当然のこととして認識しているのですが、この考え・思想をお客様へお話するとき、ほとんどのお客様が口には出さなくとも
「そんなの聞いたこともない。そうやって何度も買わせようとしているのでしょう?」
と思っているのが伝わってきます。

どんな業界であっても、新規顧客の獲得よりも既存の顧客をリピーターとする工夫のほうが重要で必要です。
何度も通ってもらう仕組みをつくり上顧客となっていただく。ファンになっていただけなければその業界・その企業は継続的な成長はありません。
飲食、製造、建築、医療、製薬、そして人形業界、どんな業界でもです。

つまり、雛人形を通じて日本の文化や伝統を啓蒙し、そのご家庭でのお子様や周りの親戚、友人、知人といった方々へ広げることが重要なのです。
このことにより、その子が大人になったとき、孫が生まれたとき、そうやって脈々と伝統を続けていくことを意識することが人形屋の仕事です。
これは志(こころざし)の高い人形屋であれば意識している所で、伝統的なマーケティングなのです。

誰の目にもわかる通り、雛人形のマーケットは縮小しています。
そして誰の目にもわかる通り、作り手は減少し業界は衰退しています。

その中で、「一人一飾り」というのは必要な概念ですし、儲けが無ければ、リピーターがいなければ倒産・消滅することは当たり前です。
儲けをとるために一人一人に用意してほしいですし、そうすることで職人が技を磨きつづけることができるのです。

儲けのために買ってほしいとみんなが思っています。だから「一人一飾り」なのです。

番外編, お母さんのお雛様・お父さんの五月人形をもらう

このあたりは、個人的には好きにして良いと思っています。

業界の考え方では、

・厄受け人形の使いまわしは良くない
すでに前の持ち主の御守りとしてたくさんの厄災をため込んでおり、「穢れ」を纏っている状態である。
この状態のまま、純真無垢な生まれたばかりの赤ちゃんに渡すことは「穢れ」を渡すことと同意である。
よって、厄受けとなる新しい器を用意しなければならない。

という考え方です。
「厄だの災いだの穢れだの、目に見えないことばっかり言って!」
と怒ってしまいますか?そうかもしれません。
ですから、私個人としては好きにして良いと思っているのです。

私の家庭の話になりますが、以前、ご先祖の御骨を、やむをえない理由からある宗派のお墓から違う宗派のお墓へ移すことになりました。
そのとき、もともとの宗派のお寺では様々な費用を請求されたのです。
お墓から魂を出すための費用や移すために費用、その他覚えていないですが様々な目に見えないものへ色々と請求されましてですね、
葬祭業界では当たり前の内容かもしれませんが、無理やり辻褄の合わない価値観を受け入れなくてはいけない状態になりました。
突然、霊感商法にあったようなものです。

そんなことを言っても受け入れるしかない(支払うしかない)わけですが、
雛人形に関してはそんな強制はありませんので、ご安心ください。(笑)