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メーカー紹介 [人形製造/卸/小売] ひいな 清水久遊(しみずくゆう)

名だたる百貨店、全国のハイレベルな人形専門店においてこの作家の雛人形を見ないことは無いといわれるほど有名な作家「清水久遊(しみずくゆう)」を紹介したいと思います。

この記事は、
・百貨店でよくみる作家さん「清水久遊」ってだれ?
・清水久遊の作るお雛様はどうなの?
・作るお雛様の特徴は?
・清水ゆたかっていう作家は?

などなど、ひいな・清水久遊とその雛人形について深堀して行きたいと思います。

有職雛工房「ひいな」 「清水久遊」について

「ひいな」というのは会社の名前です。
会社は愛知県蒲郡市にあります。1960年に初代が人形制作会社を始めました。
1986年に二代目清水八郎が雛人形専門の工房として「ひいな」が設立されました。
経営はひいなの三代目清水喜代司氏が運営されています。

つぎに「清水久遊」はひいなで働いている本名「清水 久美子」さんの作家名です。
「ひいな」という会社自体は、三代目が経営されておりますが、
「清水久遊」という作家は、当代のみです。
清水久遊は18歳の頃嫁ぎ先が人形関連の仕事を営んでいたため、そこで人形師の道に入りました。
その後、雛人形工芸士の認定を受け、
1986年に有職工房「ひいな」を設立しました。

つまり1986年に清水久遊さんは働いていた人形制作会社を退き、清水八郎氏と協力のもと雛人形に特化した工房を立ち上げたという事です。
これらはホームページにて案内があります

そして今、清水久遊のお孫さんが「Yutaka Shimizu」(ゆたか しみず)という作家としてブランディングされています。

まとめると、
「ひいな」という会社は雛人形専門の制作会社で、
「清水久遊」という作家名のブランド商品を展開しています。
そして新たに昨年頃から「Yutaka Shimizu」という
若手作家による新ブランドを立ち上げて全国へ新しい価値観を提案しています。

また、「Yutaka Shimizu」は「清水久遊」の孫であり、幼少から雛人形制作の現場に入ることで知らずのうちに人形制作のイロハ習得しています。
制作された雛人形を見る限り、技能としては祖母に劣るものではありません。
むしろ、祖母の作る雛人形とは「似て非なるもの」であり、美しさ以外にも何かこの雛人形の形の中に、さまざまな思いを感じます。

ひいなの雛人形の「形」

「ひいな」の雛人形は、語弊を恐れずにいうと
・「誰が見ても綺麗」
・「わかりやすい綺麗さ」
という事です。

ひいなの美しさの秘密 「だれが見ても美しい形」

そしてそれは第一にとても難しい事だということをお伝えします。

人形の輪郭を指して「形」といいかえて説明します。

※ここからは、「形」をわかりやすく伝えるために、人形の色が一色のみの「無垢」というシリーズの写真を使います。

 写真をみてもらえれば、なにもいう事はありません。美しいと感じる方は多いと思います。
 この45度位上から見下ろす構図は、形全体がちゃんと見える構図なのです。
 この構図で見ると、私の目にはグリッド(格子状・方眼状の縦横の線)が見え、この人形の前後左右のバランスの良さが分かり、衣装のふくらみ・しなやかさ・触感が記憶から呼び出される感じがします。


形の特徴としては、全体的な重心がちゃんと人形下部に感じられるという事です。これは、人間が衣服を着るときの自然な重力の仕組みなので、「安定」した印象となり自然に目に入ってきます。



この俯瞰図をみてもわかる通り、殿・姫ともに美しさを感じます。たくさんの雛人形を見ていますが、これほどの美しさを感じることはあまり記憶にないです。
袖の形、裳や五衣や単の広がり方、袖の柄の出方など、単純な人形のシルエットだけでなく、立体的な形までも整えられているようです。

全体的な細身の印象。それでいて着物のふくらみ、たわみ、折れ方などがしなやかで自然。


姫は着物の重なりを整えた着せ付け。生地の大きさも変え、シワの付け方も変えて、衣装の段を表現しています。
袖口から袖裾まで均一な差分で「襲(かさね)」をずらして着付けする技術を見てほしいです。

 こういう形は「技能」によって表現されるものであり、この「技能」にこそ「価値」があるということを知らなければなりません。
たとえば、この雛の着物が正絹であってもポリエステルであっても、この形を成す「技能」の「価値」は同じであるため、値段は同じであってもおかしくはないということです。

ひいなの美しさの秘密 [「形」の概念]

第二に、雛人形の「形」の概念を清水久遊が代えたということです。

この清水久遊の作る雛人形の「形」が業界に与えた影響は、「形」の概念を代えたといっていいくらいのインパクトがあります。
久遊がこの形を考案するまでは、このような形は存在していませんでした。
このような形というのは、全体的に「襲」を表現する形であり、人形の自然なたたずまいを表現する形であり、「ひいな」の表現する形すべてです。

このひいな独自のスタイルに似た作りは、今現在は本当に多くの作家が取り入れている表現方法です。
しかも、それを清水久遊自身は、

さまざまな作り手さんがこのシルエットを採用してくださっているのですが、
それはこの造形が美しいという評価がなされたからではないでしょうか。
雛人形の造形として、一つのスタイルを確立させることができたことに職人としての喜びと誇りを感じています

出展:「人形の鯉徳」|清水久遊インタビュー」より

とお話されています。
真似されたことを不快に思わず、むしろ誇りに感じるところなどは、素晴らしい心境だと思います。

ひいなの美しさの秘密 「襲(かさね)の色目」

「ひいな」のサイトには

宮廷の衣冠束帯 ・有職故実を独自に研究・創作

とあります。
実際、「ひいな」の襲(かさね)の色彩は、平安時代の配色法である「かさね色目」を取り入れ、それに「ひいな」らしさを創作した独自の配色をされているように見えます。

お姫様の一番上の着物を「唐衣(からぎぬ)」と言い、その次の着物を「表着(うわぎ)」と言います。
この2枚には着物自体に柄が入っています。
その下に5枚あるのが「五衣(いつつぎぬ)、最後が「単(ひとえ)」です。

ひいなの配色は特徴があります。
グラデーションの上下を濃い色で挟むことで、この8枚の襲ねに色の空間を作っています。
着物の立体感や奥行が表現され、それによって配色自体の美しさを引き立てているのです。


この配色は、唐衣に色数の多い撫子が描かれていることから、襲にも特別な配色を使っています。
※限定作品のため、購入不可です。


一見冷たいブルーですが、複数の青をグラデーションで裾に行くにしたがって薄くしています。
こちらも特殊な作品のため、襲に特別に考案した配色になっています。

※襲や衣装は、オリジナルで希望を伝えることも可能です。
その場合でも、おかしな色の組み合わせにならないようアドバイスがありますので、仕入れ担当者が変なものを作るということは余り無いのかなと思います。

ひいなでは、この色にも重きを置いて商品開発を行っています。
子供の頃好きな色と、大人になって知識や教養をもって選ぶ色は全く違うものです。
そしてお雛様は大人が選ぶものです。
襲ねの美しさを楽しんで選ぶ事ができるのも「ひいな」の特徴です。

ひいなの雛人形の「頭(かしら)」について

ひいなでは、頭(お顔のこと)を制作していません。
一般的な雛人形制作現場では、頭は頭師さんから仕入れるものです。
そしてそれは、ひいなでも同じことです。

では、頭はどうしているかというと、
「ひいな」自体でも数種類の頭を取り扱っており、人形を仕入れる際にその頭を指定することができます。
そして、頭自体に制限が無いので、ひいなでは取り扱っていない頭を使うお店もたくさんあります。

ですので、インターネットを見ると清水久遊の雛人形であってもお顔は千差万別さまざまなようです。
各お店でそれぞれ考えて頭を選んで取り付けているようですので、やはりお顔を見る際は実物を見ることも必要と思います。
※新型コロナウィルス対策として、ビデオ通話を取り入れているお店が多くなっています。そういったのを活用して実物を立体的に見ることも良いと思います。

ひいなの衣装の秘密

ひいなでは、衣装生地の品質によって細かなグレードわけがされています。

例えば「正絹」であっても、
唐着だけなのか、襲も正絹なのか、
元が「帯地」であったというものや、
色の統一をした「無垢」シリーズなのか、
特殊な生地の「印伝」「螺鈿」「漆織」「縫取ちりめん」
などなど、細かな品質管理がされており、それに伴った原価計算が正確にされています。
そのため、仕入れる小売店としては急な価格高騰などが無く安定した仕入れと販売ができます。

また、このグレード分けによって、お客様から質問があっても答えやすいという事もあります。
同じ三五親王という規格ながらも価格差がある理由を説明するとき、
・正絹の部分が限定されている
・帯地を使っている(作る数が数セットしかない)
・特殊生地をつかっている(生地原価が非常に高価である)

また、ひいなの人形が欲しいが、価格を抑えたいという要望にたいしては、
「京織(きょうおり)」というグレードをおすすめできます。
こちらは、人絹(レーヨン)を使った衣装なことから、生地原価が多少抑えられています。

ただし、少し前に記述したように
「正絹であってもポリエステルであっても、この形を成す「技能」の「価値」は同じであるため、値段は同じであってもおかしくはない」
という事なので、大きく価格を下げる要因ではないという事を理解しておいてください。

けれども、このグレードですが、残念ですが一般のお客様が見てわかる方法はありません。
そしてわかったからと言って、どうしようもありません。

ただ、店員さんに人絹じゃなくて正絹が良いという相談をするとか、
人形の説明を聞いたり読んだりしたときに、特殊生地の説明があれば高いのも理解できたりするとか、そういう補足した知識にはなります。

逆に言うと、一番お求めやすいグレードであっても一番高価なグレードであっても、「ひいな」で制作した雛人形であることに変わりはないとも言えます。

清水久遊 ひいな まとめ

人形の形、着せ付け、色彩、あらゆる部分において誰もが認める美しさを表現する作家であり、
購入者の満足感と安堵感、所有欲を満たしてくれます。
個人的にはおすすめする作家としてベスト3に入ります。

ただし、古典的な雛人形のイメージ、伝統的な京都の雛人形の雰囲気、そういうものを好む方には合わないと思います。
方向性の違いとして、「ひいな」の雛人形を扱わないお店もあります。
これは好みの問題なので、それで良いのだと思います。

近年は、どのお店も「ひいな」の雛人形、もしくはそれを真似た作りの安価な雛人形も多くなっています。
ですから、そういった方向性とは違う店も必要です。
伝統は伝統として残す部分も必要ですし、活かす部分も必要ですので各お店が特徴をもって品ぞろえするのが一番良いです。