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雛人形の選び方(4-2) 衣装の違い2 [帯・帯地・本着せ]

前回に続きまして、衣装の違いや宣伝文句や専門用語の意味などを紹介したいと思います。

前回はパート1として
・正絹(しょうけん)、シルク
・西陣、西陣織(にしじん、にしじんおり)
・刺繍、手刺繍(ししゅう、てししゅう)
を紹介しました。

雛人形の選び方(4-1) 衣装の違い1 [正絹・西陣・刺繍]雛人形を見ていくときに、お顔と同じくらい目を引くポイントとして「衣装」があります。 よくある表現としては、「正絹」や「西陣」、モダ...

今回もいろいろと深堀してみたいと思います。

衣装の説明に使われる言葉・単語パート2

人形業界には、呉服業界からくる用語や素材、部材が多くなっています。
「人間」が着物を着るか、「人形」が着物を着るか、
人形業界は呉服業界と親和性があります。

帯・帯地(おび・おびじ)

雛人形の衣装に、着物の「帯」を使った物。もしくは、帯にする生地を使ったものという意味です。

 帯は着物よりも豪華につくられ高価な品も多いことから、その帯に使う生地である帯地で衣装を作ったらさぞ豪華であろうという事です。帯は一般的に正絹を使います。また、美しい織物であったり、細かな刺繍や豪華な金駒刺繍、そして幻想的な友禅の染め等、高度な技術で作られる事も多々あります。
  結果として、高単価になるのですがお客様を納得させる説明が山ほどあります。そのため、昨今の人形業界では帯地の雛人形が良く見られるようになりました。

帯地の雛人形については以下の事を知っておいてほしいと思います。

 ・本当の帯(人間用の大きさの帯)であれば、最低でも京九番以上の大きさ、可能であれば京七番位が望ましい
  →柄というのはそもそも人間が着た時に見えるサイズでデザインされているわけです。
   それを雛人形の衣装に使うのであれば、大きな雛人形でなければ柄のデザインがわからなくなります。
   例えば牡丹の柄が描かれている帯があり、その牡丹の柄を雛人形の袖に使おうと構想しても、
   雛人形が小さければ牡丹のほんの一部しか見えないでしょう。

 ・コンパクトな人形で「帯地」という商品であれば、それは雛人形用の帯地の場合が多いです。
  →雛人形用の帯地とは、そもそも帯にする予定では作られておらず、雛人形の衣装として企画された帯地です。
  人が着ないので、柄や絵は細かくデザインされます。帯を作るのと同様の工程で作られますが、帯に仕立てることはせず、雛人形作家の元へ運ばれます。
    

※個人的には、製法が同様であっても、帯にしない事が決まっているのであれば、帯地ではないと思いますが…単価を上げるためだけのようにも感じることがあります。
また、せっかく「帯地」という素材・製法の良い差別化されたパッケージを作ることで販売価格を上げることができているのに、「帯地」として名ばかりの正絹でそこそこの品質で織られた低価格の雛人形をみることがあります。
これについては誰がどういう意図で企画したのかわからなくなります。
 帯地という分類は高単価であっても品質が良いという業界としての位置づけをすれば、どの人形屋さんでも商品ラインナップとして使いやすいであろうが、低価格の帯地雛がでていることで、全体の帯地雛の価値を下げてしまいます。

帯地の雛の特徴は、衣装が分厚くなり、重厚な印象になります。もともと帯地は厚く強く作られているため、衣装のしなやかな印象は失せて見えます。

本着せ(ほんぎせ)

これもなかなか癖のある表現です。
本着せ(ほんぎせ)は、メーカーによっていくつか意味があって、
「本当の着物を着せている」
「本当の着物のように着せている」
「一部式の衣装で着せ付けをしている」
などなど
どう解釈したらよいのか難しいところもあります。

※「本着せ」の概念や、価値についての考え方については、とても難しいので改めて記事にしたいと思います。
今回はざっくりと、なるべく語弊のない範囲で案内します。

最もわかりやすいのは、人形のサイズにまで縮小した着物を藁胴(わらどう)に着せ付けしている場合です。
 →人形は座っているので、着物の尺寸はある程度変更している場合があります。

 例えば、京都の平安寿峰(嵯峨の人形)さんは本当の着物のように作られた衣装を着せ付けしています。
また愛知の清水久遊(工房ひいな)は、十番以上の大きな雛人形は同様に本着せとのことです。
ただし、どちらもご自身から「本着せ」とはうたっていません。
あくまで「私はそういう作り方です」というだけであり、
それを表記するのは「どうだすごいだろう」と言っているようで嫌?なのかもしれません。

反対に、「本着せ」という札を付けてアピールしている雛人形がありますが、実際には衣装は着物のように作られているわけではなく、生産者の独自の解釈で本着せと言っている場合もあります。

 そして重要な事ですが本着せだと見え方がどう変わるかということですが、
私が経験上・仕事上でこれまで見てきた、ちゃんとした「本着せ」であれば、ある程度の大きさ(京九番、最低でも京十番)はあって、多少ふっくらと仕上がっているように見せます。
本着せにすると、衣装を作る生地が多くなることから、着せ付けに際しボリュームが出てしまうのでしょう。
それにより、全体的にふっくらと生地量に余裕が感じられるのだと考えます。

では、大切なところ、本着せは良いのかどうかという事でいうと
どちらでも構わない
という事に尽きると思います。

通常のお雛様のお姫様は、腰から上と、腰から下で衣装を分けて作ります。(二部式という)
なぜかというと、人が座った時のようにより自然に美しい着物の広がりを表現するためです。
座っている人形(藁胴)に正確な縮尺の着物を着せ付けると、生地が余りだぶつくのです。
ただし、人形がある程度大きい場合は、下半身の生地の余りも解消されダブつくこともないので一部式(本着せ)でつくることができます。

結果として、
・見た目では簡単にわかる事ではない
・見た目の美しさにはあまり影響しない
 →シルエットの好みで選んでよい。
・製作者のこだわりの部分
・どちらも正式な製法である

という事が言えます。
この「本着せ」という言葉にも、あまりとらわれないようにしましょう。

衣装についての案内は、また次回に続きます。