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「有職雛」という概念 <雛人形の形>

雛人形のことを見ていくと、「有職雛」という言葉に出会うことがあります。
※「ゆうそくびな」と読みます。

簡単に、語弊を恐れずに言うと

平安時代の上流階級が着ていた装束を使った雛人形

です。
以下、わかりやすく説明をします。

雛人形における有職の概念

「有職故実」という言葉があります。
有職とは、「知識を備えている」ことを意味します。
故実とは、「古来から伝えられる作法、制度、礼儀など」です。
有職雛とは「有職故実というルールの服や髪形の雛」みたいな意味合いです。

有職雛という概念は、江戸時代中期後期位に作られ始めました。

この当時、宮中において衣服の礼法を取り決めて仕切っていたのが
・高倉(たかくら)
・山科(やましな)
の二つの公家でした。
この人たちは、古来からの決まり事にそった装束に関する事柄をお仕事としていました。当時の独占業務ですね。有職故実にそった衣服は、
・年齢
・社会的地位
・季節や時候
など時々によって適した色や文様を変えた衣服になります。こういう事柄は、皇室や公家、大名などの階級社会の上位が習慣としていました。
簡単に言うと、昔のホワイトカラーにはややこしいルールブックがあったということです。

こういう時代背景の中、有職雛は生まれました。
この時代の雛人形は、一般庶民が購入することはなく、「有職故実」を習慣とする上記のような上流階級が飾るものでした。
作った人は、この高倉や山科の礼儀作法にそった衣服の作り方のまま、雛人形を作れば人気がでると考えたのかもしれません。
「有職」とはまさにこういう上位階級の人間の思考に好まれそうです。

有職雛に使う生地について

有職の衣装に使われる生地は、「織物」であり「染物」は使われません。
また、織物であっても「金襴」や「刺繍」は使われません。

柄として、昔から吉祥文様とよばれる縁起の良い文様をいれます。
植物や動物、自然、こういったものを図案化し連続配置したものであり、現代のデザインとしてみても秀逸なものが多いです。
色も様々ですが、その季節や着る人の年齢、役職を見ながら決められます。役職の高い方の着物は色・文様ともにほかの方が着てはいけないものもあります。

こういう特性がありますので、現代的な色やデザイン・豪華な刺繍や友禅と比べると「地味」に見えると思います。
しかし、年齢をかさね見聞を広めるとこういったものがよく見えてくるのです。

 有職雛が生まれた時代には、装束が着せ替え出来るように作られたものもあり、富裕層の方々は着せ替え用の「雛人形」の束帯を、衣装礼法の名家である「山科家」に直接注文するということもありました。

有職雛が正統であるのか

※以下は個人的な商業的考察です。

江戸時代において「有職故実」という概念で雛人形を購入することで、
 ・有職を理解し、知識人である。
 ・故実にならい、生活においてしきたりや風習を重んじている。
 ・非常に高価な物を購入でき資産家・富裕層であること、階層社会上位者である。
といった他人からの評価を得られることで「権威」を表現する効果があったのではないかと思います。
「有職故実」という権威的なデザインを背景にしたことに加え、こういう産業と富裕層がともに利益を享受できたことで自他ともに認める「正統」となったのではないでしょうか。

有職雛は選ばれるのか

そしてこれは現代でも当てはまっている事でしょう。

「正統な雛人形の形として、京都で作る伝統的な有職雛」

 これを購入する家はやはり、経済的にも裕福で豊かな家柄が多いと感じます。
おそらく、目に見える便利さや使い道だけを気にする人は、もっと違った目線で雛人形を選ぶか、そもそも購入することはないでしょう。

 目に見えないけれど、飾る以外に使い道はないけれど、
雛人形があることで得られる事があると考える人は、たとえば幼いころから良質な物を見たり聞いたり触ったりしてきた恵まれた環境によって、感性が豊かに育てられてきたのではないでしょうか。そういう感覚が、「有職雛」を選ぶのでしょう。

ただし、有職雛だけが雛人形ではないという事も事実です。
雛人形はいろいろな視点で見分けられます。有職雛はその視点の一つであるというだけです。

おまけ・・・私には娘がいますが選んだ雛は「有職雛」ではありません(笑)