上巳の節句 桃の節句

「雛人形を自分で選ぶ」ということ

あけましておめでとうございます。

なかなかブログの更新ができておりませんが、書きたいことはたくさんあります。
できるだけ私の知識だけでなく、たくさんの作家さんや専門店さん、取引先の方の知見も広めたいと思っています。

が、

新年を迎え新しい時代が始まったことを心に刻みまして、
大前提としての雛人形の考え方を書きたいと思っています。

人形という専門分野

皆さんそれぞれ自分の専門分野というものがある方も多いでしょうが、
世の中のほとんどのことは「専門外」なはずです。
そして「雛人形」については99.999…%の方が専門外です。
その条件で星の数ほどある雛人形のどれか一つを選ぶのです。

そして「雛人形の専門家」はほぼ全てが利害関係者です。
つまり、専門家に相談するというのは利益誘導されることが当たり前だということです。

なんという不利な商品選定なのでしょうか(笑)

でも、やっぱりこのことを理解するというのがフェアなのだと思います。
販売する側からすると様々な言い訳が聞こえてきそうですが、
雛人形専門店は必ず以下の商材を第一販売目標に沿えます。

1,高単価の商品
2,高粗利率の商品

それは、
「店を続ける事」「職人の仕事が続くこと」「伝統文化が続くこと」
には必要な考え方ですから、善い悪いという価値観ではありません。
「専門家」が「利害関係者」であることは、他の特殊な商売を見ても当然ですし、
他の業界でも「専門家制度」は利害関係者が利益を上げるために制定します。

人形業界においては、節句人形アドバイザー制度があります。
もちろん、第三者機関ではなく、人形業界の関係者が制定しています。
ただ、このように業界関係者がその業界内における権威付けや信頼性の担保のために、免許や資格制度を作ることは一般的な事です。

ここまでのことをしっかりと理解して「専門家」に相談してください。

雛人形の価値観の教育

雛人形には、数万円~数十万円まで様々な価格が設定されています。
そして多くの方は、一目見ただけではその価格の「意味」や「理由」が分かりません。

ただ、その理由を推し量ることができる人もいます。
一般的に「教養」のある方です。

伝統工芸の集大成でもある雛人形にはまず「衣装」があります。
例えば別の分野である「着物」に知見のある方であれば、この「衣装」の品質やデザインを見るだけで感が働くでしょう。
また、雛人形には「頭」があります。
いわゆる顔ですが、芸術分野の目が肥えている方であれば、このお顔の造形や細かさ、リアリティなどを見ると感が働きますね。
付属品である「屏風」や「雛道具」などの見え方も、様々な教養が見え方を教えてくれるでしょう。

このようにして素材の品質や作品のリアリティ、細かさ、芸術性をもって「価格」の理由になりますが、多くの方がそれを短時間で理解するのは難しいものです。

そこで、「専門家」である販売員が仕事をします。
販売員は商品知識をお客様に提供します。提供する理由はたった一つです。単価を上げるためです。

大手電化製品販売チェーンの販売員がなぜいるのかという理由も同じです。
難しい機能のついたレコーダーなどの説明をするためではありません。
もちろん客単価を上げるためです。

「専門家」によっていくつかの製品の詳しい比較の説明がされます。
これはあれよりここが良い、これよりあっちはこのような細かさがある、その細かさもそちらの巨匠の作品には劣る
などなど品質やこだわりの細部が具現化されていきます。

このように雛人形の「品質」の説明をすることで、顧客が自身で価値観を作り上げてしまいます。
これを価値観の教育と呼ぶことがあります。

そしてそのような教育をいくつかの専門店で続けざまに刷り込まれることで、
自分の価値観ではなく、教育された価値観による雛人形の見方をしてしまいます。

しかしながら、教育された価値観は自身の中で根付いてしまうため、
「その感覚で選ばなくてはいけない」
「その感覚をもって選びたい」
「その感覚(知識)をもって選ぶ事が出来て良かった」
という考えになります。

説明は受けてはいけないのか

説明を受ける前に雛人形を見ることが大切です。
そしてその中で「価格に関係なく自分の好みの雛人形をみつける」ことが大切です。
「安くても・高くても、どちらにせよ価格に関係なく」です。
それこそが、今のあなたの感覚が好きな雛人形なのです。
業界の価値観を刷り込まれる前の、あなた自身の価値観で見初めた雛人形です。

一つ目の店でそのような雛人形に出会えなければ、店を変えます。
ネットであっても同様で、違うショップを見ます。
無いからと言って「まぁ。こんな感じでいいかな」としてしまうと、
販売員の誘導に簡単に流されて「店が販売したいもの」になってしまいます。
※それが悪いものではありませんが。

そうやって雛人形をみつけたあとに、接客を受けることが望ましい流れです。
私としては、接客を受けて、価値観や好みが変わったりすることは構わないと思っています。

たとえば、
知らなかった衣装の手触りや風合いの良さを知っったり、
衣装の文様や絵柄にとても良い云われや縁起が隠されていたり、
そういったいわれが子供の名前に関係があったり、
最初は怖かった京頭が店で見ている間に、だんだん得も言われぬ味わいを感じて目が離せなくなったり、
そういうことはあります。

そうやって予算があがることもあるでしょう(笑)

「雛人形を自分で選ぶ」ということ

自分の価値観を認識する、改める、見つめなおす、
そうやって雛人形を選ぶということが、自分で選ぶということです。

接客をしていると、多くの方は最初にこれだとおもった雛人形に戻ります。
中には帰った後に電話をしてきて「やっぱり最初のに」という方もいます。

以外と自分の価値観で選ぶというのは、なかなか経験できない事です。
とくに伝統工芸や芸術の分野でというと、雛人形選び位かなと思います。

ですから、雛人形との出会いを楽しんでほしいです。
手作りの雛人形でも、おさがりの雛人形でも、巨匠の雛人形でも、
どんな雛人形であっても、本質的な意味は「子供の御守り」ということに変わりはないのですから。