上巳の節句 桃の節句

<雛人形の飾り場所を確保できない>という問題の解決方法

雛人形選びの際に、
「飾る場所がない」、「そんな家が広くない」
というお話をよく聞きます。

この言葉にはいろいろな意味があって、そのお客様の本質を理解して応えなくては接客する意味がありません。
接客時の会話でお客様の緊張感をほぐしながらその本質を探っていくことが重要です。
お客様は人間です。最初から全てを正直にお話してはくれません。

また、お客様となる立場の方は検討違いな商品案内をされないように、丁寧に希望を伝えましょう。
金銭的な制限や、自宅の面積の狭さ等の条件を正確に伝えなくては希望の商品の案内を受けることができません。
希望を伝える際に見栄を張る必要はありません。

1)その言葉通りの意味としての「飾る場所が無い」と捉えて対応する。

接客する場合の対応

実際に飾る場所が無いような家の方は、おそらく雛人形を選びに店頭には来ないです。
ですから最初は、
「飾る場所は、狭いスペースしか確保できない。」という意味として受け取ります。

この段階ではコンパクトな物、具体的にはセットとして60cm幅位から案内します。
セットの価格はピンキリなので、最初は20万円前後のものから案内すると良いと思います。
この段階で、まだ大きいと仰られる場合は50cm、40cmという風にサイズを落として案内します。
案内する商品の価格は大きく変更しても良いと思います。
10万のものを案内したあとに20万のものを案内したり8万のものを案内したりするとお客様の中で
「大きさと価格は比例しない」
という認識が生まれます。

消費者としての対応

本当に飾るスペースが狭いという場合は、あらかじめ飾る場所の幅と奥行きをを図っておきます。
それを販売員に伝えることで解決します。
あとはその場所に収まるような提案を提示してもらいましょう。

コンパクトな商品の提案では解決しない場合の理由<価格が合わない可能性の場合>

接客する場合の対応

先ほどの提案でよい返事が得られない場合は以下の二つの問題が考えられます。

「価格が合わない」
「デザインが好みではない」

まずは「価格が合わない」可能性の確認です。
ここからは丁寧なコミュニケーションに手を抜かないでください。

価格が合わない可能性を確認する場合は、
コンパクトなセットのなかでも価格帯が高・中・低と大きく離れるセットを3つほど提案しお客様の反応を確認します。
反応というのは、言葉だけでなく目や口元の動き、体全体の向きなどで興味を引くかどうかを見ます。

接客というのは基本はコミュニケーションですが、
なにも心理テストのようなことをする必要はありません。

目線の先にプライスカードがあるかどうか、
プライスカードを見て目をそらすか、
プライスカードなど見ずに作品を見ているか。
見ているなら作品のどこを見ているか。
お客様が教えてくれる情報はたくさんあります。
情報をもらうためにこちらから情報を公開していくのです。

「価格が合わない」場合は、安価な作品だけでなく中くらいの作品もよくみます。
ですのでそういう傾向が見られたら、サイズを上げてお手頃の商品も案内してみます。
「こちらは少々大きくなりますが、価格設定を勉強しています。」といった形で案内すると色よい返事をもらえる場合もあります。

たとえば、
「大きくても安いのはなぜ?」
「同じような商品はほかにはないの?」
といった返事があれば、丁寧に応えます。

この場合は会話を通じて予算を想定してセットを絞り込んでいきます。
セット変更が可能な店であれば、予算を調整するために屏風やお道具などを変更したり省略したりしてお客様の様子を確認します。
ここまでを丁寧に接客していれば、お客様のほうから希望を伝えてくれるようになります。

消費者としての対応

お客様として来店している側の場合、どうしても予算などを知られないようにしてしまう場合もあります。
その場合は、まったく想定していない商品の提案を受けつづけるかもしれません。
それはそれで苦痛ですし、こちらの煮え切らない反応によって態度が悪くなってくる販売員もいます。
お互いにとってよくありません。

ですからばっさりと予算を伝えることが必要です。
ただしここで注意点があります。

例えば予算20万と伝えた場合、

・予算20万以内の商品を提案する販売員Aさん
・予算20万を少し超えた商品を提案する販売員Bさん

とが存在します。

<販売員Aさんの思考>
・予算に少し足すだけでより良い作品が選べるという気持ちでの提案
・予算を上げる(売上高を上げる)ための提案

<販売員Bさんの思考>
・提示された予算内で最善の商品を探して提案したいという気持ち

「モノ」にかぎらず「コト」も含めてすべての業種の販売員とは
基本的に売り上げを上げる事が仕事です。
そしてその成果は1円でも多いほうが優秀な仕事人となります。

ですのでお客様の無理のない範囲を予測して予算を超える商品を提案する販売員Aさんは
営業社員として優秀な考えをもって行動していると言えます。
ただそれは、お客さま目線において一概にどっちが良い悪いとは言えません。

A販売員の提案によって多少の予算オーバーは問題なく、
むしろ満足度が上がることで接客を評価するお客様もいる反面、
予算を伝えたのに話が通じない店員だなと思うお客様もいます。

予算を伝える場合は若干の遊びをもって
「〇〇万円くらい」と伝えるか、
超えられないという意思をもって
「〇〇万円以内で」
というように言葉を明確に販売員に伝えることが良い提案をもらえます。

コンパクトな商品の提案では解決しない場合の理由<デザインが合わない可能性の場合>

接客する場合の対応

つぎは「デザインが合わない」可能性の確認です。
デザインとは主に雛人形のセット全体を見ます。

「飾る場所がない」という言葉のなかには、雛人形ののイメージが昔のデザインのままで否定的な印象を持っている場合があります。
昔のイメージとは
・七段飾りで大きい
・金襴や金屏風
・大きな人形
・しまう箱が大きくてたくさん
などのイメージです。

そんな場合もコンパクトな作品であり、モダンな作品を提案することで態度が軟化します。
しかしながら一般的に、デザインや好みと合わないという場合はもっと高度な要求であることがほとんどです。

例えば、

・人形が好きじゃない
・屏風を変えたい
・道具がごちゃごちゃして不要だ
・色の組み合わせが全体的にあっていない

といった意見まであります。
この場合は、セット変更が可能な販売店であれば柔軟に対応できるので問題はありませんが、
セット変更不可な販売店であれば対策はほとんどありません。
 →自店舗で提案できる商品がなければメーカーカタログから提案します。
 ただ、メーカーカタログの商品在庫の確認が必要なため3つほどの提案をするほうがスムーズです。

もちろん、セット変更が可能な販売店であれば、可能な限りセット変更をします。
この段階では価格の増減は良き悪しきにかかわらず無視します。

特に、雛人形自体の変更によって全体の価格が減少してしまう場合は、販売員としてはドキッとしてしまうでしょう。

セット変更可能と言いながら人形自体の変更で難色を示した場合、お客様にはちゃんと伝わってしまうものです。
人形以外でも屏風もセット価格全体に影響する道具です。
このような、単品価格の大きなものの変更を希望された場合は、変更しない方がいい理由をつらつらと言い訳がましくお話するのはかえって不信感を与えます。

まずは、ちゃんとお客様の好みを把握するために自由な気持ちで変更していただくことが良い結果につながると考えています。

消費者としての対応

<貴方が消費者である場合>
デザインの質によっては、ある程度の大きさ(コンパクトさ)を妥協できると考えた場合は、
デザインの好みをどれだけ正確に伝えられるかが重要です。

もし、まだデザインの好みの方向性がアバウトである場合は、
店内にある好みのセットを見つけてそのなかで、どこが気に食わないのかを考えてみるとよいです。

ただ、素人でもプロでも同じく、
「なんかちょっと違うけどどこを変えたらいいかわからない」
という場合はあります。それならそれを伝えると良いです。

その回答をちゃんと受け止めて、丁寧な言葉遣いや態度で一緒に考えてくれる販売員さんであれば信用できると思います。

なぜなら、
多くの販売員は時間あたりの客単価が低いと感じた場合、接客態度の品質が落ちます。

商業主義であれば合理的な考えかもしれませんが、
私たちが販売しているものは御節句の商品であり、伝統工芸であり、日本の文化です。
金額の多寡が最優先の企業は文化を育てる意識は低くなります。

個人的には、そのような意識のお店では購入意欲がそがれることが多いです。

では、そのような接客が望めない場合、積極的なヒアリングなどをしてもらえない場合はどうすればよいでしょうか。
難しい所ですが、「これだ!」と思える気に入ったお雛様が無い場合は違うお店に行くことを検討してください。

デザインの好みの伝え方ですが、
いくつかあるので、そのメリットデメリットを考えていきます。

1)他店で撮影した写真や、Amazonや楽天、その他のWEBショップの商品写真を販売員に見せる
 →そのセットのどのような部分が好みなのか、どこが好みではないのかをはっきり考えておく。

 特に、「好みではない部分」を明確にしなければ、
また同じようなセットを案内されかねませんし写真を見せられた販売員は
「そのセットをその店で購入すればいいのでは?」と考えます。

 そもそも、
 その写真を見せて「このセットが欲しいんだけど」というような事を販売員に伝える方がいますが、
 それであればそのお店で購入すれば良いだけですが、それより安く用意してほしいというように聞こえてしいます。
 (※そういう意味かもしれませんが)
 このような場合、普通の販売員の心情は不快以外の何物でもありません。
 消費者としての意識、マナーの問題であることを理解する必要があります。

価格やデザインでの提案においても解決しない場合

接客する場合の対応

ここまでじっくり提案しても解決しないことは非常に多くあります。
接客時間も長くなりますし、セット変更などもたくさんするので店内も散らかることもあります。
それでも決定していただけない事はよくあります。
販売員として心が折れてしまう場合もあるでしょう。

しかしながら、
ここからはお客様の声をちゃんと聴く時間になっていることを知っていてください。
これまでの時間は無駄ではなかったことを知ってください。

人の発する言葉には意味があります。
一つ一つ聞き漏らさず、お客様本人も意識していない本当の意味を拾います。
この段階まで来たお客様の言葉はいつもとは違うと考えてください。

たとえば、
「迷うな…」
 と言った場合、それは購入するかどうかを迷っている訳ではなく、
・セット内容のどこかの道具が決めきれないということや、
・2つのセットでどちらにするか決めきれないということ、
 場合によっては、
・下見に寄っただけなのにもう最高の状態のセットができたので決定したいが、
あくまで下見によっただけなので親やパートナーに了承や報告の仕方が分からない
という心理であることが想定されます。

この場合の「迷うな…」は、長時間接客したことで漏れ出た言葉なのです。

他にも、
「店員さんならどちらがよいですか?」
と聞かれることもあります。
よく心理的には、
「その場合お客様の心の中ではどちらが良いか決まっている」
といいます。

そこで販売員の心情としてはまるで、
「どちらかの二択を迫られているように感じ、
お客様のこのみではない方を選んだ場合購入してもらえなかったり、
購入後にやっぱりあっちが良かったというふうにならないか」
を心配するものです。

しかしながら、その認識がすでに間違いです。
お客様の中でどちらかすでに決まっていようが決まっていまいが、
問われているのは「貴方の好み」であって、「私の好みをあてて」ではないのです。
さらに、
「私ならばこちらのお人形が良いと思います。なぜならあちらに比べて…」
といったように、好みを聞かれただけなのに、
自分から人形の説明をして誘導もしくは言い訳をしてしまいがちです。
これでは、店員さんに誘導されているという気になる場合もあります。

この場合、個人的な経験では、「私の好みはこちらですね!」とだけ伝えています。
お客様のほうからどうしてかと質問してくださるからです。
そして、毎回必ず、私の好みと逆の方を選ばれます

この経験は二度や三度ではありません。おそらくこのような状況が十度以上訪れていますが、
必ずどうしてかをご質問され、反対の方を選ばれています。

様々な理由や偶然、そこに至る話の流れなども影響しているはずですが、
結果だけみると、一方的な結果です。

私自身、相当悩み考えましたが、最終的にはただ人となりの意見が欲しいだけなのかもしれません。
そして、そのような間柄になっている事(販売員と消費者ではなく、人と人、友人同士の会話)が重要なのではないかと考えます。

消費者としての対応

<貴方が消費者である場合>
ここまで来ても決定できない状態の自分を良く観察してください。
なぜなら、
そこまで接客を受けて必要な情報がある程度は入手出来ているのであれば、
方向性は定まってきていると思います。
また、担当した販売員に対する印象もある程度定まっているでしょう。

決定できない理由を考察してみてください。

・デザイン、サイズは決まったし欲しいと思っているが予算が足りない。
・欲しいセットが決まったが、自分には決定権がない。
・デザインもしくはサイズに想定以上の妥協があるため決めきれない。
・販売員とのコミュニケーションの質が悪く感じている。

ほとんどが以上の理由に当てはまると思います。
※それ以外の場合ももちろんあるでしょう。

ではどのようにすればスムーズに交渉がすすめられるでしょうか。

1、<デザイン、サイズは決まったし欲しいと思っているが予算が足りない場合>

 ここで予算の事を隠したまま接客を受けるのは誰にとっても損です。
 販売員は、
 「お客様はこのセットで満足しておられるように感じる。
 しかしながら決定はいただけない。
 最後の一押しがたりないのだろうか。しかし無理な接客は嫌われる。
 どうすればよいのだろうか。」
 と考えます。
 熟練の販売員であれば様々な可能性から、予算問題に行き着く方もおり、
 お客様の自尊心を保ったまま予算を落とす提案ができます。
 しかしながら、多くの販売員はそうではありません。
 ただ、心情があります。
 
 ここで消費者側が伝えるべきは

「このセットが非常に気に入っており購入すべきと考えるが、予算が足りない。
具体的には〇〇円以内に抑えたい。可能だろうか。可能であればそのような提案が欲しい」

 と言うことです。

 このように伝えられれば、
 販売員は必ず譲歩案を提案します。
 これまで長い時間をかけて接客してきた販売員は、
 接客にかけた時間と自分の労力とをここで失うわけにはいかないからです。
 単価が落ちても売り上げ自体が無くなるのは耐えがたいのが心情です。

2、<欲しいセットが決まったが、自分には決定権がない場合>

ひと昔前はお子様の母親の両親、
つまりあかちゃんのおじいちゃんおばあちゃんがお雛様を購入しにきました。
そして、全てそこで決定されていました。

しかし時代はうつり、現代はお子様の母親、つまりあかちゃんのお母さんが選ぶ事が一般的になりました。
色々な理由がありますが、多くは
・両親が購入すると大きすぎるお雛様を贈られる
・自分で見て選んで好きなお雛様を選びたい
の二つです。

ただし、お金は変わらず祖父母様が出資しますので、
購入前に見てもらうという方も多くいますし、ご主人も一緒に見て決めるという方もいます。
ですから、
奥様が一人で下見にこられた場合は、決定権が無いということが当たりまえにあります。
ではこの場合はどうするか。

販売員はそれでも決定もしくは仮決定、前受け金や一時金をいただいて取り置き等の制度を紹介するでしょう。
それはそれで、貴方か気にいったお雛様であれば、その提案を受けても良いと思います。
ただ、問題は、その仮決定のルールのデメリットをお店に確認することです。

・取り置きや仮決定はできるのか。
・取り置きや仮決定に一時金や手付金、前受け金などの支払いの必要はあるのか。
・もしキャンセルする場合は前払いした手付金はどうなるのか。
・もし祖父母と再来店したときに、祖父母(出資者)の希望で商品変更があった場合はできるのか。
・商品変更時に手付金はどうなるのか。

貴方が気に入ったお雛様です。
そしてお雛様は旬のモノであり二度目は無いと思っていいものです。
ですので、取り置きや仮決定ができるのであればするべきです。
ただ、
上記のような店独自の取り決めは確認すべきです。

もし、取り置きができない場合は、その場で親族にご連絡し購入確認をしましょう。
どうしても決定ができなくて取り置きもできない店であれば、
潔く諦めてください。縁というものは人間同士だけにあるものではありません。
そしてこれも縁だと理解してください。

3、<デザインもしくはサイズに想定以上の妥協があるため決めきれない場合>

これも先ほど同様正確に伝えるべきです。
デザインに妥協がある場合はどの部分なのかを正確に。
 人形なのか、屏風なのか、飾り台なのか、雪洞なのか、、、
 物によっては納得いくデザインの品に変更してもらえます。
 この問題は、
 これまでの接客が薄かったことでセットが定まっていなかったと考えられます。
 貴方が販売員に対し正確に希望を伝えていなかったり、
 裏を返せば、正直な気持ちを伝えることに抵抗がある販売員だったとも取れます。
 いづれにせよ、
 担当した販売員や販売店とはまだ信頼関係が薄かったのだと感がられます。

サイズに妥協がある場合も同様で、そのことを伝えましょう。
 筆者の存じている販売員や小売店では、
 例えば80cm幅で飾っている京十番というサイズのお雛様を
 幅65cmのセットにしなおして販売しています。
 同じように65cmで飾るお雛様を50cmで飾ったりもします。
 
 商品知識や商品自体の品ぞろえが豊富で経験豊かな販売員は、
 「どの作家のどのサイズの雛人形は、どのメーカーの飾り台のどのサイズまで飾れる」
 という情報が無数に頭に入っています。
 そしてそういったスタッフはある程度の規模の店にはいるものです。
 サイズでの妥協が大きすぎる場合は相談することで解決することが多いと思います。

4、<販売員とのコミュニケーションの質が悪く感じている場合>

ある程度の時間の接客を受けてこのように感じている場合は、今はその店を出ることです。
販売員の良し悪しにかかわらず、人間同士の相性は必ずあります。
そこを妥協すると、購入した雛人形にまで印象が悪くなってくるかもしれません。
違うお店に行っても良いですし、
再来店するにしても、違う販売員に接客を受ければ変わるかもしれません。
こればかりは、お店にたいして正直に伝える事でもありません。

ただ、
明らかに高圧的な接客をする販売員や、商品知識の浅い販売員もおります。
その場合ももちろん店をでることが解決策となります。

本題とはだいぶ脱線しましたが……

飾る場所が無いという問題への解決策を
消費者、販売員のそれぞれの立場で検討してきましたが、
「双方においておおむね正確な情報のやり取りが良い」
ということが分かると思います。

消費者としては不必要な見栄を出さないようにし、
販売員としては丁寧に時間をかけてお客様の気持ちを察していくような接客をする。

文章にすると非常に簡単ですが、実行するのは大変難しいと思います。
私自身、このことを胸に忘れず接客を続けたいと思います。