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雛人形 選び方(7) 雛人形っていくらするの? [雛人形の価格をみる(1)コンパクトタイプの裏側]

今回は、お雛様を買おうと思ったとき、だれもが考えること、

・雛人形っていくらぐらいするの?
・みんなが買う相場・平均はいくらぐらいなの?
・いくらぐらいあれば、「ちゃんとした」雛人形がかえるの?

といった疑問にこたえたいと思います。
※ここでは、衣装着と木目込の両方のタイプに共通する内容としてご案内していきます。

いくらするのかの結論

お雛様の値段は3万円~30万円位の間です。
なぜならば、「ものによる」からです。
ものすごく当たり前の事なので、もちろんこれで終わりではありません。
そもそも、この「ものによる」というのが、最初にみるときにはわからないのでややこしいことになっているのです。

大前提として、「値段には理由と根拠がある」という事を理解しておいてください。

高い価格のものは高い理由があり
安い価格のものは安い理由がある。

ということです。

いろいろなメーカーや同業者がインターネットでライバル店の価格や取引先までわかってしまう時代です。
おかしな値段設定、
例えば原価に何倍もかけてボッタくるような設定や、
原価割れしている価格設定(赤字でも売り切りたい)などは目立ってしまうものです。

ネットに出さずに店頭だけでそのようなことをしたとしても
最近はお客様の目が鋭く、他店と比較検討しない方はほぼいないでしょう。
そんな中で、おかしなことをしたら店の信用を失います。

では、市場が相応の価格設定をしている、その「理由と根拠」を
今回は「コンパクトタイプ」についてご案内したいと思います。

タイプによる価格帯の区分け

まずは、分かりやすく現在の人気のタイプを見ながら説明したいとおもいます。
そもそも、今の人気のタイプは

1)コンパクトなタイプ
2)モダン・シンプル・デザインに凝ったタイプ
3)作家さんのタイプ

の三つが大きいです。
そして、ここから混在したタイプが派生していきます。
たとえば、
「作家がコンパクトな人形をつくりモダンでシンプルなデザインにセットした雛人形」
などなど。

ざっくりいうと、この、人気のタイプをかけ合わせていくと値段は上がります。
人気のタイプから外れていくと、値段は下がります。
ですが、人気のタイプから外れすぎると値段はあがります(笑)

たとえば、
「40号(120cm幅)の七段飾りで、デザイン的には重厚な焼桐の飾り台が使われて、人形の作家は〇月とか吉〇とだけ記載があり、とても大きな人形が15人そろっている」
というタイプなどです。
何年も前に仕入れた商品であることは間違いないですし、現在の需要からは大きく外れているのですが、販売する側としてはこれを安くすることは難しいです。
なぜなら、仕入れた人間には成功体験がしみついており、大きな段飾りが高値で飛ぶように売れた時代があり、原価もそれなりにかかっているからです。
こういう作品は今回は無視します。
あくまで、「今の人気のタイプ」から見ていきます。

人気タイプ1(コンパクト)

現在はお客様からも、この「コンパクト」という言葉をよく聞きます。
住宅が狭くなったということをよく聞きます。確かに狭くなっています。
しかしそれ以上に、「雛人形に避けるスペースを抑えたい」という気持ちの表れであることが本質です。
それを否定する気はありませんし、私もそれでいいと思います。
大きな雛人形が部屋を専有する様子は時代遅れで違和感を感じます。

このコンパクトの定義ですが、
幅が40cm位でコンパクトという感覚があったのですが、
地域によっては幅が70cm位でもコンパクトという感覚があります。

ただ、ネットで見ている限りの一般的なコンパクト感は40cm~60cm以内位を表現していることがわかります。
このサイズ感での価格を見ていきたいと思います。

大手ショッピングモールやオンラインショップでの価格でいうと
30000円前後からみつけることができます。
多くはガラス・アクリルケース入りの雛人形です。

※今回、ちりめん細工などの布製や、陶器などは省いています。
 理由としては、雛人形の文化的な側面が多少違うからです。

雛人形のタイプについて<素材による作り分け>着物を着た雛人形以外にもたくさんの雛人形があります。...

そして、その反面、人形専門店のホームページを見ていくと
10万円前後~
作家や工房によっては、20万円~というものもあります。
※コンパクトな親王飾りであるのにです。
ここで、コンパクトという事に対して、価格が大きく違う理由が必要になります。
コンパクトな商品の中でさらにわかりやすく分類分けしますと以下のようになります。

1,コンパクトケース飾り
2,コンパクト有名作家雛
3,コンパクト専門店独自企画雛

ひとつづつ説明したいと思います。

1,コンパクトケース飾り

コンパクトなケースタイプというのは、楽天やヤフーなどの大手インターネットショッピングモールなどでランキング上位の作品が該当します。
価格目安から言うとコンパクトケース飾りの価格帯は3万前後~

特徴としては、「小さくて安くてキラキラでケースで」
とてもいいことずくめのように見えますが、もちろんそうでない場合もあります。

メリットとデメリットを紹介します。

1-1.「小さいくて安い」というメリットには、「作りを省略する」という裏があります。

 あえて参考商品を乗せたりはしませんが、比較してみると見えてくるものです。(つまり、ほかと比較しなければ良いのですが) 
 
 小さく作るためには、もともとの雛を、寸法をしっかりと縮尺した生地や道具を作る必要があります。とても細かな作業のため、本来は技術的にも工賃的にもコストが大幅に上がります。
 しかしそれを安価に仕上げるためには、制作する雛人形の作りを簡略化するほかありません。
 着物は着ているようで、実際はそれらしい生地に裁断して貼っているだけだったり、胴体は適切な綿入れをしないので細く痩せた印象になってしまったり、ケースに接着することで背面や底の人形の作りを省略することができます。それをケースにいれることで、多少の綻びを隠すことができます。
 結果として、人形本体にかかる費用は大幅に削ることができます。

1-2.キラキラで豪華な衣装やお道具がついている

本質的に、素材や品質の良いものは、豪華にキラキラするものではありません。
では、キラキラ豪華な装飾が使われ、写真画像によってはキラキラした写真加工をするものもあるのかというと、コストを掛けずに目を引くからです。
簡単に目を引くことができる上に、価格を落とせるので販売につながるからです。

たとえば、安価な素材の衣装であっても光沢フィルムを使ったり、カットガラスをつかったり、派手な色彩を組み合わせたりすることで目を引くこともできます。
御道具なども、プラスチックで成型したものを多用することも可能です。

すべてのコンパクトケース飾りがこのような作りであるとは言いませんが、製法を工夫することで、見た目をそれほど損なわずに内容のクオリティを下げながらコストを落とすことは可能です。

ただし、私個人的にはこのようなお雛様を否定しません。生産者はそうやってコストを下げてでも、多くのお客様に雛人形を届けることができるのです。
女の子にとって、自分の雛人形があるということは特別なことです。高いから買えないという状況を少しでも無くし、たくさんの方に雛人形を届けるということは、雛人形の文化が続くためにはとても良いことです。

2,コンパクト有名作家雛

コンパクトに高いという作品のタイプがこちらになります。
価格目安から言うと有名作家のコンパクトタイプの価格帯は20万前後~
そもそも作りの良い雛人形はケースに入れません
ここに高価になる理由があります。

2-1.どのような角度からも、真上からも真下からも、隅々まで見られることを前提に作っています。

有名作家の作る雛人形は、作家の名前で売っているわけではないという事です。 
作りの良さ、本質的な美しさの評価によって高価になっているのです。
そしてその作りは、すべてを見ることを求めているし、本体を持って触られることを想定しているのです。
そのため、隅々までは見えにくく、触ることもできないケースに入れることは、本来の良さを隠しているということになります。

2-2.本当なら、小さく作ることで余計に値段をあげなくてはいけない

一般的にどんなものも、大きくなればなるほど値段があがる、という認識があると思います。
しかし、本来はそうでないものも多いのです。

雛人形等の工芸品は特にそうなのですが、
素材や作りの工程を変えずに、縮尺だけを小さく作るということは、とても難しいことなのです。
職人の手は小さくならないのです。
いままででも細かな作業であったものが、より一層細かくなり、場合によっては、作業のための専用の仕事道具まで新しく作り変える必要もでてくるでしょう。
小さくなると、バランスが悪い場合は目立ってしまいます。そうなれば制作に一層の気配りが必要ですし、手直しも大変になるのです。
このような作業と工程が、職人の神経をすり減らし作業量も多くなるのです。

しかし、多くのメーカーでは、小さいからと値段を上げません。
同じか、やや下げる程度の価格にする場合が多いです。

このため、有名作家のコンパクトなタイプというのは、仕事量に比較して価格は抑えられているのです。

3,コンパクト専門店独自企画雛

コンパクトだけど、作りも良いものがいい。それでも、有名作家さんの作品ほどの予算は出せない。
そういう場合におすすめなのが、全国の人形専門店それぞれが独自で企画したセットです。

価格目安から言うと専門店独自企画雛人形のコンパクトタイプの価格帯は10万前後~

そもそも、
専門店独自企画雛人形とはなにかをご説明します。

これは、比較的新しいスタイルで、ここ3年位で広まった考え方のように思います。
まず、十数年前に岐阜の「後藤人形」というメーカーが
完全にオリジナルの雛人形の世界観を表現したセットをつくりはじめました。

その後、雛人形のセットを自由に組み替えることができるお店が、同じような感覚でそのセットづくりを参考に独自のセットを作っていきます。
そして、その中で「ふらここ」さんのように、雛人形のお顔からオリジナルで企画するお店も出てきます。
そうやって少しずつ、「仕入れた商品を売るだけのお店」から、「仕入れた人形やお道具を店なりにかんがえてセットを作るお店」へ変わる時代になりました。
現在は、多くのお店が「お顔」「衣装」「お道具」を独自で企画し、着せ付けする職人を探して人形制作を依頼することで、本当に独自の雛人形セットを作る試みをしています。

このようなお店のセットは、その多くが15万円前後のセットに抑えられていることが多いです。
また、SNSを駆使し、インスタグラムなどでセットをばんばんアップしています。
とても目を引くようなセットが多いので、そのようなお店のインスタグラムを見た方も多いと思います。

3-1.かわいらしく丁寧な作りが基本。触っても良し、どこから見ても良し。

専門店が独自で企画するセットです。下手な物は作りません。それは店の信用にかかわります。
ですから、腕のいい職人や工房に下請けを依頼することで、
雛人形の品質を確保しつつ、コストをある程度抑えた人形を用意することができます。

これは、そういった腕のいい職人や工房との付き合いがあるという専門店それぞれの良さがポイントです。
有名作家ほどコストは掛けなくとも、良い人形を作る職人は大勢います。

3-2.専門店側が、必要なコストと不要なコストを考えてセットを作れる。

たとえば、百貨店に出るような作家は、百貨店の看板も背負っていますので、人形本体のみならずその付属品にあたる、親王小道具や人形を包む生地、人形をしまう桐箱、その桐箱をつつむ段ボールの品質にまでこだわるなど、人形以外でも大きくコストを掛けるものです。

しかし、一般的な職人は、人形本体のみをしっかり作るだけです。お顔は頭屋さんが用意するし、小道具は道具屋さん、人形を包む紙や梱包資材・段ボールなどは基本的に新聞紙をつかったり農協の野菜が入っていた箱なんかを使って送ってくるところも多いです(笑)そのまま、職人さんから消費者へ行ったら、そりゃあもうえらいことになります。

でも、それでいいのです。そうやって人形本体を作る事のみに集中してくれるおかげで、大きく費用を落として届けてくれます。
それを清掃して梱包しなおして綺麗なお祝いの宝箱にするのは、問屋や小売店の仕事です。
そうやって得意なことを分けてやることで、専門店独自企画に雛人形ができるのです。

専門店は付属品やノベルティを検討して値段を決めていけますので、低価格でもなく、高価格でもない狙い目の15万円当たりのセットをつくって品質と利益のバランスのよいセットを用意できます。

コンパクトタイプまとめ

長くなってしまいましたが、
コンパクトタイプのまとめとして価格の目安と特徴は以下となります。

1,コンパクトケース飾り
楽天やヤフーなど大手ショッピングモールでは価格は3万円~
 小さくて安くするために見えないところで、雛人形自体の作りを省略する、
 素材をプラスチックにする、あえて豪華にみえる装飾をする、
 ケースで粗を目立たなくするという側面があります。

2,コンパクト有名作家雛
専門店や百貨店において20万円前後~
 前後左右上下、隅々まで見てもらう事を前提にした作り、
 手に触って持つことを前提にした作りによって、綻びなく手間暇かけた美しさを追求している。
 小さくすることによる作業の複雑化などは見えてこないため、本来の価格よりも抑えられている印象がある。

3,コンパクト専門店独自企画雛
 店舗独自のセットで15万円前後~
 丁寧で教科書のような作りが多い。触っても良し、どこから見ても良し。
 小売店側で部材などの中間コストを削減する努力があるため、人形の品質が良いまま、最終価格を抑えられる。

次回は、「モダン・シンプル・デザインに凝ったタイプ」の価格帯を紹介しようと思います。