上巳の節句 桃の節句

雛人形の選び方(4-1) 衣装の違い1 [正絹・西陣・刺繍]

雛人形を見ていくときに、お顔と同じくらい目を引くポイントとして「衣装」があります。

よくある表現としては、「正絹」や「西陣」、モダン、デザイナー、オシャレなどなどありますが、これらの表現によって販売店が顧客にたいして期待する誘導があります。今回はその衣装の違いや意味、販売側が期待する誘導についてを紹介したいと思います。

衣装って違いがあるの?

たくさんの雛人形を見るとき、見分けるポイントほぼほぼ「衣装」になります。
お顔で見分けるよりも、大きさで見分けるよりも衣装による視覚情報はとても多いです。
そのため、みなさんは衣装をみて、「あ、きれい」とか「これ、みたことあるかも」と判断するわけです。
大きさ違いで二つ用意しても、場所を離して設置すれば「あ、これさっきあっちでみた」という判断になります。

仕入れする小売店も、やっぱり衣装を慎重に見定めます。
言ってしまえば「お顔」はいつでも自由に変更可能ですが、衣装は不可能です。

着せ替えができる雛人形というのは今は存在しません。
「一代限りの御守り」といい概念においては、着せ替えという行為に価値がないからです。
※昔は、市松人形のようの人形遊びの一環としての雛人形もあり、衣装の着せ替えができるものもありました。

このことによって、決定基準の多くを占める「衣装」ですが、
いろいろな「言葉」にお客様が迷うことがあります。あえて難しい言葉を並べる店員さんもいるかもしれません。
分からなければ、どんどん突っ込んで聞くのがよいのですが、そうできない人もいます。
※突っ込まれると答えが濁ったり、話をすり替えていくベテラン販売員もいます(笑)
これから書く内容はそういう人に少しで参考になれば幸いです。

衣装の説明に使われる言葉・単語

よく聞く言葉や、よく書かれている内容を紹介します。

正絹(しょうけん)、本絹(ほんけん)、シルク

100%の絹(きぬ)を使っています。という意味の言葉です。
ただ、人形に使う生地のすべてを100%の絹を使う人形師、着付師はそれほど多くはいません。
つまり、「人形全てにおいて」という意味ではないということです。

正絹の部分は、殿の装束全体と姫の唐着(からぎ)のみをさす場合が一般的です。

※もちろんその他の部分も全部絹を使う作家もいますし、一部のみ化繊(かせん…レーヨンやポリエステル等)を使う作家もいます。

正絹という言葉は聞きなれないかもしれませんが、業界内では雛人形の衣装の品質が良いよという意味合いで使います。そしてそれをお客様にも言います。販売側としては価格が多少高くなっても理解を得やすい効果があります。

ただし、絹にはランクがあります。雛人形に使う絹が良いものかどうかは、品物を見てもわかりません。
たとえば、生地の糸を抜いてそれを火であぶって正絹の確認をする方法もありますが、
そうしなければわからないくらいの生地であれば、もう、正絹かどうかを気にする必要はありません。

そして、前提として正絹ではなくても良い生地もあります。
正絹とは「素材」の名称であって、数ある素材の一つであると思っておいて構える必要はありません。

西陣、西陣織(にしじん、にしじんおり)

京都の西陣というエリアを指し、そこに500年以上前から根付く織物産業の技術で織られた生地であることを表記しています。
ただし、すべてが西陣で織られた生地ではありません。

西陣の問屋が取引したもの、つまり西陣の地を経由したものも一部そのように扱うこともあります。
生地問屋からの話を聞くと、
・海外で生産された生地を輸入しているものが割合多いということであり、値もそのようにつけられて取引されているということ。
・雛人形の値段が10万円程度である場合に、本来の正絹・西陣織という生地が使われるとは考えづらいということ。

「正絹」という表記と同様「西陣」という表記があったとしてそれが決定打になるような雛人形の選び方はしてはいけません。
つまり、言葉に惑わされる人は、
・「西陣」と書いてあるから高いんだ
・「西陣織」じゃないのに、なんでそんなに高いんだ。他店では「西陣織」と書いてあったが安かった。
という事を言いますが、それぐらい「人形の値段に関係ない」という事です。
※価格には、人形の作家による製法の違い、装具がある場合はその屏風やお道具などの値段の違いも影響します。

「西陣・西陣織」とは、京都の西陣で織られたり、西陣で管理された織物である
という意味となり、美しい・綺麗という見え方には影響しない言葉です。

刺繍、手刺繍(ししゅう、てししゅう)

分かりやすいですが着物の柄に刺繍を入れているという意味です。

刺繍というと、生地に下絵を描いてチクチクと糸を縫って柄を描くようなイメージですが、現在はほとんどが機械刺繍です。アパレル業界でもっと多く使われる技術ですので、機械の精度や品質が良くなってきているわけですが、それと同様です。

以下は機械刺繍で作った生地の雛人形の袖の写真です。

次は、手刺繍(てししゅう)といい、人の手で刺繍した雛人形の袖の写真です。

違いが判るでしょうか。
どちらが良いか悪いかという問題ではありません。同じ刺繍でも違うように仕上がっているという事の例です。

実際には、見た目による綺麗だという判断の他に、目で見えない判断も出てきます。
たとえば、価格です。
機械刺繍の雛人形と手刺繍の雛人形は価格が倍以上ちがいます。場合によっては3倍差がでるかもしれません。

人の手間はコストに跳ね返るものです。手刺繍の手間がそれほどの差を生むのです。
※実際には、機械刺繍はポリエステルの衣装・手刺繍は正絹の衣装という違いや、作家の作りの違いなどもあります。

「刺繍」や「手刺繍」とは技法の名前という事ですので、美しい・綺麗という見え方に直接影響する言葉になります。

ただし付け加えるならば、「刺繍」という技法は、好きな場所に好きなものを入れることが出来るため、語弊を恐れずにいうと「簡単」という意見もあります。
すでにある織物の生地を使う場合は、雛人形の袖に生地のどの部分を使うかという構想が必要ですが、
刺繍であれば、袖が来る位置に機械で刺繍を打つことで融通が利くのです。

衣装の違いで選ぶ パート1まとめ

今回はパート1として
・正絹(しょうけん)、シルク
・西陣、西陣織(にしじん、にしじんおり)
・刺繍、手刺繍(ししゅう、てししゅう)

の三つを紹介しました。
伝えたりない部分もあるのですが、長くなってしまうためある程度は割愛しました。
ただ、大枠は伝えられたかと思います。

まとめますと
・正絹(しょうけん)、シルク
 →正絹とは「素材」の名称であって、数ある素材の一つ。
 人形に使う生地のすべてが100%の絹をという意味ではない。襲ねや単衣、袴などは化繊であることが多い。
 正絹ではなくても良い生地はたくさんあります。正絹という言葉にとらわれないこと。

・西陣、西陣織(にしじん、にしじんおり)
 →京都の西陣での織物産業の技術で織られた生地であること
 ただし、最近はすべてがそうではない。
 京都の西陣で織られたり、西陣で管理された織物であるという意味となり、
 美しい・綺麗という見え方には影響しない言葉です。
 「西陣」という言葉にとらわれないこと。

・刺繍、手刺繍(ししゅう、てししゅう)
 →生地に機械で刺繍する、もしくは手で刺繍すること
 美しく綺麗にする技法の名前ですので、雛人形を選ぶ見え方に直接影響する言葉。
 あとからいつでも簡単にできる側面もあるので価格が抑えやすい。

では、また次回に続けたいと思います。