今回は、雛人形の作家によって具体的にどのような違いがあるのかという事を、
小売店の視点と消費者の視点からご案内したいと思います。
前回は具体的な作家として、小出松寿と清水久遊という二人の作家をご案内しました。
今回は木目込作家の真多呂人形を見ていきたいと思います。
木目込雛人形について
おさらい木目込人形とは?
こちらで簡単に触れていますが、
ボディの素材に胡粉をもとに作った桐塑(とうそ)が使われます。
そこに生地を張っていくのですが、生地をボディに留めるために、ボディに筋を入れてそこに生地を押し込むようにして定着させます。
特徴としては、衣装着の雛人形に比べて小さく作れるという事が、現在の住宅事情も相まって人気になっています。
その木目込ですが、インターネットや専門店、百貨店をめぐるといくつかの作家や工房が見えてきます。
そのうち、いくつかの特徴をご紹介していきたいと思います。
真多呂人形
木目込人形では一番の有名所でしょう。経営者は三代目真多呂である金林健史氏です。
現在は、一般社団法人日本人形協会の会長をされています。
ちなみに父親である二代目真多呂の金林作郎氏は、同協会の名誉顧問をされておられます。
雛人形業界の中でも特に権力が集中しているような印象を受けるかもしれませんが、まったくそんなことはなく、人形業界は結構どこも自由にやっており、協会員・協会員外問わず協会からの指示や圧力等はまったくありません。
むしろ協会の活動は微妙だったりするので、そこは頑張ってほしいところです。
話がそれました。真多呂人形の話にもどります。
木目込人形の制作においては、「木目込み人形発祥「上賀茂神社」認定、唯一の正統伝承者」とあり、経済産業大臣指定 伝統的工芸品の技に認定されていたり、藍綬褒章の受章者であったりと、権威と地位を高く保っている企業です。
「真多呂」の雛人形を購入すると以下のようなメリットがあります。
・有名百貨店でも購入できる→百貨店のブランドで購入できる
・「真多呂」というブランディングが構築されているので、お客様の所有欲が満たされる。
・低価格~高価格帯まで幅広くラインナップしているので、比較的購入しやすい。
・下記の伝統マークがついている作品がある
・雛人形の知識が浅くても、変な物を買ってしまうことはない
真多呂の雛人形であれば、おかしなものはないという安心感があります。
ただし、真多呂の雛人形を仕入れて販売する小売店では、セットは独自でしていいものなのでセットの仕方によっては「あれ?あれ?」というものもあるかもしれません。公式オンラインショップであれば、真多呂が会社として販売するのでそのようなことはないでしょう。
・低価格帯であっても「真多呂」の雛人形である。
この、「真多呂」であるという意味は大きいです。
人に贈るものである雛人形は、他人からの評価を意識して購入する傾向も少なからずあるのです。
とくに、年配の方はそのような思考が強いです。
お孫さんの雛人形を、親戚やママ友から見られても社会一般的に「良いもの」であれば、
・いいものを用意してもらっている
・この家では、教育や躾もしっかりとしているのだろう
・雛人形を贈った方は、さぞ立派な方なのだろう
というような見られ方を期待しているのです。(実際にそう思われるかは別として)
次に、「真多呂」の雛人形の特徴です。
数ある木目込人形のなかで、作家を言い当てるのは難しいのですが、真多呂の場合は「お顔」が特徴的です。
・しもぶくれ方が真多呂っぽい
・目の描き方が真多呂っぽい
ただ、これ以外にも作品をたくさん見ることで作家がわかるようにはなります。それはまた別の話で。。
お顔について
特徴的ないくつかのお顔を紹介します。
このあたりの長い間定番のお顔が、描き目の細いラインや、ほっぺたの丸い感じ、あごがちょっとだけある感じなど真多呂らしいなぁと感じます。
そのほか、入れ目(ガラスの目がはいった、衣装着のお顔で一般的なタイプ)のものもあるのですが、昔から真多呂を見ている私にはあまり真多呂らしさを感じません。それについては私の見方が古いという事もあるでしょう。
衣装について
色々な衣装がありますが、真多呂の特徴は特に限定品に表れています。
たとえば
・本金タイプ(定番もあり)
・箔押タイプ
・デザインタイプ
がそうです。
真多呂人形 「本金」タイプ
真多呂のプロパー商品においては、最上級と指定されています。最上級にふさわしく、下記の素材・技術が使われます。
衣装が本金糸を使っておられていること。
本金糸という概念については結構奥が深く、本金といっても本金箔ではなかったり、いろいろと仕様があるのですが、この場合は金をフィルム状にして巻いた細い一本の糸を金糸としてつかっています。
木目込の作りにおいて技術を必要とするポイントが多い
木目込であるのに、そう感じない作り。そういう技術が見られます。
着物を着ているかのようなシワや、ふっくらとした丸み、衣装の艶や襲ねのような着物の生地を細かく切り替える作りなど、最高の技術が使われています。
真多呂のサイトによる本金雛の紹介では以下のように記載があります。
着物に丸みやたるみを出すため木目込みに高度な技を要する、少数の職人のみが制作できる雛です。「人形の豪華さ、格調高さが感じられるものを」という本物志向の方にお勧めです。
たとえばこの雛人形はなんと100万円を超えています。
ですが、本当のシルクの艶やかでつるりとしてしなやかな着物の自然な流れを感じさせる木目込の高度な技術が見て取れます。
真多呂人形 「箔押」タイプ
箔押タイプは、以前は見本市によくあって、専門店が仕入れて販売する形が多かったと思います。限定品が多いことから、仕入れた専門店が独自色を出しやすく、価格も安定しており利益をちゃんと確保できる商材でした。
ただ、最近はちょっと種類も増えたことから、自社のオンラインショップでも販売されており、
仕入れて販売するお店側からすると、価格を抑えなくてはならず、扱いにくい商品であるようです。
これはつまり実のところ、品質に対して価格が低くつけられている傾向があり、消費者から見ると狙い目だとかんがえています。
では、その箔押タイプの特徴を紹介します。
衣装に箔押された絵柄がのっていること。
公式サイトには以下のように説明があります。
箔押しとは、木目込んだ衣裳の表面に、膠(にかわ)で溶いた胡粉で絵柄を描き、乾く前に金・銀箔を接着し、岩絵の具で彩色する技法です。立体感のある箔押しの衣裳が、親王の存在感を大きく高めています。
この説明の通り、衣装には立体的に盛り上がった絵柄がのっています。これが箔押による絵です。
この絵の良し悪し、好き嫌いによって雛人形を選ぶのですが、どれも綺麗なものが多いです。
以下に公式サイトの箔押タイプ一覧へのリンクを紹介します。
公式真多呂人形の「箔押」タイプの検索結果一覧
ずらずらっと出てきますが、個人的におすすめなのは以下の天宝雛Wという商品になります。
箔押 天宝雛W
雛の画像は横向きのものをあえてえらんでいますが、これは箔押の柄を見せるためです。
真多呂の天宝雛はそもそも定番商品ですが、それの箔押限定版というタイプです。
そして天宝雛には二つのおすすめポイントがあります。
伝統マークがついている
伝統的工芸品に指定されていることです。
これは実は天宝雛シリーズというより、この「箔押」シリーズがその指定された作り方をしています。
伝統であり正統な品質を保っているという保証がそこにはあります。安心して購入できます。
コンパクトである
天宝雛シリーズはずっと昔からある真多呂の人気シリーズですが、ずっと昔からコンパクトでした。
たとえば、上記の天宝雛Wは 間口45cm×奥行24cm×高さ23cm というサイズです。
ほぼほぼどこにおいてもスッキリ飾れるサイズですよね。
たとえば、
箔押 朱雀立雛J
こちらの立雛の商品は、梅の枝が美しく、殿は紺、姫は赤と雛人形らしいデザインです。
こういう作品はどうしても人気がでます。また、立雛ということでお道具も少ないことから価格も低めです。
また、
箔押 天宝雛X
この二つは、薄い水色とピンクのペアで、印象もよく、箔押もかわいらしい、価格も抑え目ということもあり、実は品質に対して価格が低めの狙い目商品だと思います。
個人的には真多呂の箔押タイプは良いと思っています。
ただしあとは柄が好みかどうかだと思います。
真多呂人形 「デザイン」タイプ
公式サイトにはこの2点が掲載されておりますが、見本市の時にはもう少し違うものもありました。
おそらくそれらは完売してしまっているのだと思います。
これらの作品は、屏風も奇抜さに合わせて、箔押部分のデザインもかわいらしくモダンにデザインされているところです。
真多呂の伝統的な作品のシルエットはそのまま、デザインを現代的に変えた、進化した作品と思います。
あまり気にすることではありませんが、このデザインにすることで伝統的工芸品のマークが取得できないようです。
ただし、それを有り余って魅力ある作品であると思います。
真多呂のおすすめまとめ
品質も良く、価格も抑え目で好みの柄があれば買いだと思うのは
箔押タイプ
が最もおすすめです。
品質や限定品という事も考えるともう少し値段が高くても良いよと思いますが、
そうしない部分も含めて、おすすめです。
購入はさておいて、折角雛人形を探す機会なのですから、真多呂の雛人形を見てみることをおすすめします。