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雛人形の選び方(2)  [大きさの違いから選ぶ]

雛人形の選び方は人それぞれですが、前もって条件を考えてから見に行くという人は少ないと思います。
それでも、ほとんどの方が最初に言うのは、「ちいさいのが良い」です。

これはどういう事でしょうか。
大きさでの心配ごとを少しご案内しようと思います。

小さい方が良いという考えはどういうことか

「10年前と比べて、家は明らかに狭くなっている」
ということが現実になっています。
特に都市部の新築マンション、新築戸建ては一目瞭然です。

10年~20年前と違って基礎設計が全く変わっています。
どのデベロッパーも圧縮プランによる設計が一般化しています。
収納スペースを抑えたり、コンパクトなリビングとキッチンを一緒に表記して広く見せたり、
都市部におては、10年前と比べて専有面積が10平米ほど少なく設計することが一般化しています。
また、「〇〇畳」という表記も信用できません。
なぜなら、畳のサイズが違うからです。京間でもなく江戸間でもない小さいサイズの畳で計算している場合もあります。
※これは、実際に家を購入するときに様々な物件の資料と現地を見比べて気が付いて調べて確認したことです。

 そしてマンションも戸建ても、用地や建材の原価は上がっているのに、国民の所得は上がっていません。
中古のマンションを購入すればいいという考えもありますが、
・多少でも条件の良い中古マンションは価格が上がっています
・現在の30~40代の社会人はそれほど所得が上がっていない(そもそも低い)
・10年前にくらべ生活費も増えた(通信費など)
ということから、だれでもが広い家に住むことはできないのです。

まとめると、昔よりも狭い家に住み、昔よりも優先度の高い生活品が増えているということです。

そのなかで大きなお雛様は、飾り場所にも困り、収納場所にも困るのです。
このあたりは、なかなか人形屋さんは気が付いていないと思います。

そして、あまり認めることに辛い現実として
雛人形に対する価値観が低下しているということも大きいのでしょう。
というよりかは、「大きな」雛人形に対する価値観が低下しているということだと思います。

大きい方が良いという考えはどういうことか

もしかしたら、今の雛人形を探している世代にはわからない価値観かもしれません。
大きな雛人形は「大きいだけ」だと思っているかもしれないからです。

ですが、それは間違いです。

「大きい」ということで、いくつもの利点がありその中において、一つだけ自信をもって言えることがあります。

それは、「大きな人形ほど、造形が美しい」ということです。

美しい造形というのは、人形の姿形や輪郭、着物の形や模様やシワの出方、顔の色艶やほほのふくらみや目の深い色合い、
男女の並びの落ち着きや雰囲気から現れる風合いや情緒など、目に映るものから空気感に感じるものに至るまですべてが「美しく」作られます。

そもそも基本的・物理的な前提として、「職人の手は小さくならないの」で、
ある一定の大きさまでは技術を遺憾なく発揮できるが、一定を超えた小ささのものでは、その技術が役に立たないということが起こりえます。

しかしそれでも小さくするためには、もちろん技術を磨くということもするでしょうが、
多くの場合、部品を小さくしたり、あまり見えない部分の作りを省略したり、そういった形での工夫が多くなります。
結果として視覚情報が少なくなるため、大きなお雛様と見比べた場合に物足りなさが目立ってしまうのです。

しかし、この制約を取り払って、技術を最大限に発揮できる大きさの人形であれば、その美しさが際立つのも頷けるものです。

お顔は特に顕著です。大きな人形のお顔は本当にどれも美しい造形に感じます。しかし、同じ頭師が同じ型で小さく作ったお顔は、確かにきれいではありますが大きな頭を見た後では物足りなくなるのも事実です。

ただし、大きいからといってどの作家が作っても美しいというわけではありませんし、大きいことによって多少の粗は目立たなくなるというメリットもあります。

大小それぞれのメリットやデメリット

大きいメリットは美術的観点と見栄の文化と考えます。

大きいメリット

・先に述べたように、大きな人形は美しいです。
 美しいと一言ですますと1行で終わってしまいますが、この言葉には、

  • 目の中の色までわかるほどお顔の作りが細かくできる。
  • それにともない髪の毛の量が多い大きな頭になる。
  • 手の爪まで色を塗ることができる。
  • 着物の枚数が多く着せ付けできる。
  • 着物の柄が細かく織られた織物である
  • 着物のシワや折り目、膨らみなどが立体的・多重構造に表現できる
  • 檜扇に細かな絵付けがある

 などなど、たくさんの意味の美しさを含んであり、これらはすべて大きいことでより一層美しさを増す技法・素材となっています。
 ※ここでいう大きいという概念は人形の規格において「京九番」もしくは「小十番」以上とします。この大きさの規格については、今後別の記事で紹介します。

・見栄えがいいです。
 雛人形を他人に見てもらうことに自信をもつでしょう。相手の両親や親せきに対して、威厳を示すことで安心を得る方もいます。
 そもそも、親戚づきあいがあるなかで相手の実家を気にする世代や家柄もあるのは仕方がないことです。
 そのためある程度の大きさが必要という考えの方もたくさんいらっしゃいます。

大きいことによるデメリットは、言わずもがなというものです。

大きいデメリット

・単純に飾るスペースを大きくとる。
・より美しく飾るためには、より一層の空間を必要とする。
・片付けの場所を大きく必要とする
・段飾りの場合、出すのがおっくうになり、一夜飾りなどのタブーをやってしまう
・段飾りの場合、片付けがおっくうになり、だらだらとだらしなくなる

単純におおきな場所で飾る必要がありますし、窮屈に飾るのではなく、空間を贅沢に使ってゆったりと飾ることが美しい飾り方になることから、思っている以上の空間を使います。
そして、片付けに関しては、場所も使うし、時間も使う、労力も使うというデメリットが大きくのしかかってきます。
たとえ子供と一緒に出したりしまったりすることが躾に良いといっても、いつまでもやりたくないという気持ちも出てくるでしょう。

小さいことによるメリット・デメリット

木目込タイプであれば、もともとコンパクトに作られている場合が多いですが、
衣装着タイプであればやはり小さく作ることで、先にも述べましたが、作りの良さや美しさは多少損なうということはあります。

ただ、大きさによる価値観はそれぞれですが、現代の考えでは、「小さくて美しいもの」や「小さくて精巧なもの」に対する価値が上がっているように見えます。
雛人形に対する考え方においても、消費者の意見として「小さくて良いもの」や「小さくて良いもの」という希望を聞くことがあります。
消費者のニーズの多くが「小さくて良いもの」という方向にあるのは確かです。
こうなると、小さいことにはもはやメリットだけということになります。

ただし、すべてがそうならないのも事実です。
一定以上の大きさを保ったままコンパクトに飾り付けをする工夫をしている小売店もあります。

まとめ

大きいことには理由があり、小さいことにも理由があります。
どうしてニーズがこのような流れなのかということにも理由があります。
ですが、確実に感じるのは
大きければ良い、豪華であれば良い、というような他人に対し見せびらかすような意味合いが感じられる価値観は現代において不要だということです。

最後に、同じお顔の型で作ったサイズ違いを紹介します。

京七番用の頭

京九番用の頭

京十二番用の頭

どれが美しいと感じましたか?
また、実物で見るのとは印象も変わりますので、ぜひ実物を見て選ぶと良いでしょう。

大きくても小さくても自分が本当に良いと感じるもの、その商品に出会えることを願います。